患者紹介で月1万4千円の上前 営利目的の在宅医療ビジネスにご注意を
2010年度の地区医師会との懇談会で、在宅医療を求める患者に対して、往診・訪問診療を行う医療機関を紹介し、手数料を徴収するビジネスが、京都に参入している、との報告があった。これについては、京都府医師会のメーリングリストや、地区庶務担当理事連絡協議会でも意見交換され、問題視されている。
問題の業者はZ社(仮名)。神戸市のポートアイランドに本社があり、福岡・池袋・千葉・横浜・名古屋・吹田の各市に支店を有している。
同社のホームページを見ると、「在宅医療を基本とした、患者と医療を結ぶ新たな形の医療サービス」と称して、「病院に行くのが面倒、かかりつけの病院が遠い、病院に行く時間がない、近所の医師を知らない、足が不自由で家から離れにくい、家族に迷惑をかけたくない」と考える患者を、「パートナー」と呼ぶ契約を締結した医療機関に紹介しているという。
医療保険制度蝕む在宅医療ビジネス
問題は二つある。
一つ目の問題は対象患者だ。在宅患者訪問診療料は「在宅での療養を行っている患者であって、疾病、傷病のために通院による療養が困難な者に対して定期的に訪問して診療を行った場合の評価であることから、継続的な診療の必要のない者や通院が容易な者に対して安易に算定してはならない」と通知されている。往診料は「患家の求めに応じて患家に赴き診療を行った場合に算定できる」が、対象患者はやはり「疾病、傷病のために通院による療養が困難な者」であろう。
つまり、Z社が宣伝する「医療機関に行くのが面倒、かかりつけの病院が遠い、病院に行く時間がない」は訪問診療料、往診料の算定要件に当たらない。
二つ目の問題は紹介料だ。会員からの情報等によると、Z社は契約医療機関に対して、在宅時医学総合管理料と24時間往診・訪問診療が可能な場合は在宅療養支援診療所を届け出させた上で、在宅患者1人当たり月1万4000円の紹介料を徴収している。保険医療はビジネスではないため、そもそも紹介手数料が発生すること自体が問題だ。また、在宅時医学総合管理料は患者1人一月当たり、院外処方2200点、院内処方で2500点、支援診療所の場合は院外処方で4200点、院内処方で4500点だが、これから考えても手数料は異様に高い。さらに、初月の紹介だけで用は済んでおり、Z社の関与が済んでいる在宅医療に関して次月以降も紹介料を毎月請求するのは道理が通らない。
紹介手数料の徴収には強面の者がよこされるという噂もある。その事実は不明だが、噂の根拠と思われる事実もある。Z社の本社・支社の住所は、訪問販売、会員制ホームメンテナンス(ホームクリーニング・リフォーム・ホームチェック・セキュリティ等)、リサイクル事業等を行うM社(仮名)と全く同じだが、このM社は、07年12月27日、「勧誘目的を隠して訪問販売をする等、不適正な取引行為を行っていた」として、大阪府・大阪市事業者指導チームの調査により初の業務改善指示が行われている業者だ。連日の長時間勧誘等の迷惑行為でも行政指導を受けている。
このような業者と住所を一にし、一体として経営されているとおぼしきZ社の在宅医療ビジネスに関わることは、保険医にとって非常に危険であると指摘せざるを得ない。
指導・監査も危惧、点数改悪にもつながる
これら新手の在宅医療ビジネスに関わった保険医に対する指導・監査も危惧される。10年5月、中日新聞は、愛知、岐阜で横行していた、居住系施設として位置付けられていない、いわゆる「寝たきり老人専用賃貸住宅」における「看取りビジネス」についてシリーズで報道している。鼻腔栄養で命をつなぐ「寝かせきり老人」に対して、毎月、漫然と医療保険の頻回の訪問看護を指示し、自身も一律に週3回の訪問診療を行っていた保険医がいるという。県と厚生局は協議機関を立ち上げて対策を急ぐ、と当時報じられており、その後、この保険医には個別指導等が行われた(結果は不明)。一方、いわゆる「寝た専賃」を経営し、保険医を「看取りビジネス」に勧誘したコンサル会社は「寝た専賃はただのアパート」と主張、管理人の立場を強調している。不正請求と断じられた場合の責任は、全て保険医に負わされる危険を孕んでいる。
また、「寝た専賃」アパートは法的な位置付けがないため住宅扱いとなり、訪問診療の算定は居住する患者全てに830点が算定されていた。10年9月15日の保団連厚労省交渉で保険局医療課は、10年改定で同一建物居住者の訪問診療料が一律200点とされたことについて、上記「看取りビジネス」が影響した、と回答している。このように一部の限られた保険医の軽率な関与により、全国の保険医が不利益を被った事例もある。
これらの事情を踏まえ、会員各位の冷静な判断をお願いするとともに、在宅医療に関する相談については、ぜひ保険医協会事務局までご一報いただくことを切に願う。