代議員月例アンケート(59)  PDF

代議員月例アンケート(59)

医院経営と雇用管理の現状について
実 施=2011年3月2日 有効回答=30
対象者=京都府保険医協会代議員 95人 回答率=31・6%

 2008年3月以降、改正パートタイム労働法の施行や最低賃金法が改正され最低賃金額以上の額を支払わなかった使用者への罰金が50万円に引き上げられるなど、雇用をめぐる法律(労働関連法規)が大きく変わっている。09年4月から10年3月までの1年間に労働基準監督署の定期監督を受けた医療機関の8割が労働基準法違反で是正勧告を受けており、これは全業種に比して高くなっている。零細な医療機関にとって雇用管理は難しいと思われるが、労働基準監督署の調査(監督)が入れば、「知らない」「できない」では済まされない。残業代の未払いなどが是正対象になれば経営にも影響を及ぼしかねない。これらの状況からも、労働基準法や労働契約法、パートタイム労働法等の労働法制を遵守した雇用管理が医療機関の経営にとって重要な問題となっている。本アンケートでは労働基準法等で事業主に課されている義務項目についての認知度を伺った。

 回答者の主な標榜科は、内科が53%、次いで多いのが整形外科17%。

 診療形態は、個人が57%、法人40%である。

 従業員数については、常勤者は1人が23%で最も多く、次いで0人が20%、2人、3人が13%、5人が10%であった。非常勤は0人、4人、8人が13%、7人が10%、1人、2人、3人、6人が7%。常勤も非常勤も0人で従業員を雇用していないのは1件であったため、回答者の9割は従業員を雇用している。雇用者数の平均は常勤が2・3人、非常勤は5・17人となっている。

雇用契約について

 雇用契約を交わしているのは60%。また、職員を採用する際に労働条件を必ず書面で明示しなければならない項目として「労働契約の期間」「就業の場所・従事する業務の内容」「労働時間に関する事項」が定められていることについては80%〜93%が
「知っている」と回答している。

 「賃金に関する事項」については「月給や時間給の額」90%「賃金の締切日や支払日」93%が知っているが、「諸手当の額や計算・支払方法」73%、「所定時間外、休日・深夜労働に対する割増賃金率」63%と認知度が若干低下している。

 「退職に関する事項」については「自己都合退職の手続き」が73%、「定年制の有無」「解雇の事由及び手続き」が77%、となっている。また「昇給の有無や時期」についても知っているのは67%となっている。

 パート職員に対しては、「退職手当の有無」「賞与の有無」も明示する必要があるが、知っているのは63%、67%となっている。

 これらの項目は、厚生労働省が示している「労働条件通知書」を用いることで雇用契約とすれば網羅できることを知っているのは47%にとどまっている。「労働条件通知書」は『医院経営と雇用管理』(保団連発行)に掲載しているので活用していただきたい。

労働時間について

 労働時間とは休憩時間を除いた実労働時間ということや、労働基準法において「休憩時間を除き1週間について40時間を超えてはならない」「各日については休憩時間を除き8時間を超えてはならない」と定められていること、この限度時間を法定労働時間と言うことについては90%、83%が知っている。また、所定労働時間は医療機関の就業規則などで、職員の労働すべき時間として実際に定めた時間であるが、法定労働時間を超えることはできないことを知っているのは80%となっており、この項目は良くご存じである。

 しかし、時間外労働や休日労働を行わせる場合には、職員の過半数代表者といわゆる36協定を締結して労働基準監督署に届けることが必要なことを知っているのは53%にとどまっている。なお、休憩時間は労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上与えなければならないことを知っているのは70%となっている。

就業規則について

 就業規則を作成しているのは63%。常時10人以上の職員を使用する医療機関は、就業規則を作成して職員の代表の意見書を添付し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないことを知っているのは47%。10人未満の雇用が多いため、知らないとの回答が53%となっていることはいたしかたない。

 なお、常時10人以上の職員とは、正規職員、パート職員等すべての職員を含むことを知っているのは53%であった。

健康管理について

 職員を新たに雇用する際に健康診断を実施しなければならないことを知っているのは67%、常時使用している職員に対して1年以内ごとに定期に、健康診断を実施し、その記録を事業所は5年間保存しておかなければならない義務があることを知っているのは50%、健康診断の項目は労働安全衛生法により、項目が定められていることを知っているのは57%であり、健康管理については認知度が若干低いといえる。

 なお、健康診断の費用は事業主負担となることを知っているのは83%であった。

労働保険等について

 アルバイトを1人でも雇用した場合は労災保険の手続きが必要なことを知っているのは70%、週20時間以上勤務し、かつ31日以上雇用見込みのある職員を雇用した場合は雇用保険に加入させなければならないことを知っているのは63%と、この項目についても認知度が低いと言える。

 医療法人や常時5人以上の職員が勤務する個人医院は社会保険の強制適用事業所となることを知っているのは57%。個人医院で常時5人以上が勤務するところは多くないので、このような数字になると思われる。

パート職員について

 パート職員であっても6カ月以上勤務すれば、勤続年数や労働時間に応じて有給休暇を与えなければならないことを知っているのは73%あり、認知度は比較的高いといえる。

解雇のルールについて

 職員を解雇する際には、就業規則や労働契約書等に、どのような時に解雇されることがあるのかをあらかじめ示してあり、その要件に合致した場合しか解雇できないことを知っているのは67%。就業規則や労働契約書等に解雇事由が明示されていても、客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当と認められないときは、解雇権を乱用したものとして、その解雇は無効となることが労働契約法に定められていることを知っているのは83%と認知度は高い。また、解雇を行うときは、30日前までに解雇の予告が必要なこと、予告せずに解雇する場合は最低30日分の平均賃金を支払う必要があることを知っているのは、87%、77%と、認知度も高い。

最低賃金について

 京都府の最低賃金が10年10月17日以降、時間給749円になっていることについては77%と認知度は高い。また、最低賃金は、事業所で働くすべての職員(パートタイマー、アルバイト等を含む)に適用されることについては93%と認知度は非常に高い。

労基署の調査について

 最近の傾向として、労働基準監督署の調査は「労働条件に関する自主点検の実施について」というアンケートで自主点検結果を報告させて、改善が必要な項目が多い事業所や対応が不誠実な事業所を調査対象とする場合があることを知っているのは13%と、ほとんど知られていない。

 「労働条件に関する自主点検の実施について」というアンケート調査を受けたことがあるのは10%であり、調査はまだ一般的ではないようである。

雇用管理に関する意見・感想

 ○被用者の権利ばかり守られていて、解雇はほとんど不可能に近いように思われます。『医院経営と雇用管理』は大変有用です。助かっています。

 ○今回全くわからないことが多く、かなり改善が必要と思いました。

 ○当院では雇用管理に詳しい者がおり、基本的にはきちっと対応できていると思います。しかし、従来医師自体の雇用状態がいいかげんな状態であったために結果として医師が個人経営者になった場合に雇用管理に対して無頓着になってしまうのだと思います。

 ○医業経営の状況の悪化と共に当時(初期)の契約内容が十分に実施できないときも出てくると考えるが、なかなか労働条件の変更ができないのが現況である。

まとめ

 回答していただいた30人の代議員の雇用に対する意識は高く、労働基準法を遵守した雇用管理が行われていると思われる。ただ、時間外労働を行わせる場合には、いわゆる36協定を締結することやそれに対する賃金の割増率についての認知度が若干低いことは注意を要する。また、解雇に関する事項ではどのような場合に解雇できるのかについての認知度が若干低かった。解雇でトラブルが起きると種々の問題の引き金となるので注意を要する。

 会員におかれても、本アンケートの項目について今一度点検され、雇用環境の検証の一助になれば幸いである。

医院経営と雇用管理についての質問項目

≪雇用契約について≫

1、貴院では職員を雇用する際に、雇用契約を交わしていますか?

2、職員を雇用する際に、労働条件について必ず書面で明示しなければならない事項が定められています。その各項目についてご存知ですか?

(1)労働契約の期間

(2)就業の場所・従事する業務の内容

(3)労働時間に関する事項として
(始業・就業時刻)(所定労働時間を超える労働時間の有無)(休憩時間・休日・休暇)

(4)賃金に関する事項として
(基本給となる月給や時間給の額)(諸手当の額や計算・支払方法)(所定時間外、休日・深夜労働に対する割増賃金率)(賃金の締切日や支払日)

(5)退職に関する事項として
(定年制の有無)(自己都合退職の手続き)(解雇の事由及び手続き)

(6)昇給の有無や時期(この項目はパート職員以外には書面でなくても可とされている)

(7)パート職員に対しては上記(1)〜(6)に加えて
 (退職手当の有無)(賞与の有無)

3、上記1の項目は、厚生労働省が示している「労働条件通知書」を用いて雇用契約とすれば網羅できることをご存知ですか?

≪労働時間について≫

4、労働時間とは休憩時間を除いた実労働時間をいいますがご存知ですか?

5、労基法において「休憩時間を除き1週間について40時間を超えてはならない」「各日については休憩時間を除き8時間を超えてはならない」と定められていること、この限度時間を法定労働時間と言うことをご存知ですか?

6、所定労働時間は医療機関の就業規則などで、職員の労働すべき時間として実際に定めた時間ですが、法定労働時間を超えることはできないことをご存知ですか?

7、法定労働時間を超える時間外労働及び法定休日に休日労働を行わせる場合は、職員の過半数代表者と協定を締結して労働基準監督署に届け出ることが必要なことをご存知ですか?

8、休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上与えなければならないことをご存知ですか?

≪就業規則について≫

9、貴院では就業規則を作成していますか?

10、常時10人以上の職員を使用する医療機関は、就業規則を作成して職員の代表の意見書を添付し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないことをご存知ですか?

11、常時10人以上の職員とは、正規職員、パート職員等すべての職員を含むことをご存知ですか?

≪健康管理について≫

12、職員を新たに雇用する際に健康診断を実施しなければならないことをご存知ですか?

13、常時使用している職員に対して1年以内ごとに定期に、健康診断を実施し、その記録を事業所は5年間保存しておかなければならない義務があることをご存知ですか?

14、健康診断の項目は労働安全衛生法により、項目が定められていることをご存知ですか?

15、健康診断の費用は事業主負担となることをご存知ですか?

≪労働保険・社会保険について≫

16、アルバイトを1人でも雇用した場合は労災保険の手続きが必要なことをご存知ですか?

17、週20時間以上勤務し、かつ31日以上雇用見込みのある職員を雇用した場合は雇用保険に加入させなければならないことをご存知ですか?

18、医療法人や常時5人以上の職員が勤務する個人医院は社会保険の強制適用事業所となることをご存知ですか?

≪パート職員の有給休暇について≫

19、パート職員であっても6カ月以上勤務すれば、勤続年数や労働時間に応じて有給休暇を与えなければならないことをご存知ですか?

≪解雇のルールについて≫

20、職員を解雇する際には、就業規則や労働契約書等に、どのような時に解雇されることがあるのかをあらかじめ示してあり、その要件に合致した場合しか解雇できませんが、ご存知ですか?

21、就業規則や労働契約書等に解雇事由が明示されていても、客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当と認められないときは、解雇権を乱用したものとして、その解雇は無効となると労働契約法に定められていることをご存知ですか?

22、解雇を行うときは、解雇しようとする職員に対して30日前までに解雇の予告が必要なことをご存知ですか?

23、予告せずに解雇する場合は最低30日分の平均賃金を支払う必要があることをご存知ですか?

≪最低賃金について≫

24、京都府の最低賃金は2010年10月17日以降、時間給749円になっていますが、ご存知ですか?

25、最低賃金は、事業所で働くすべての職員(パートタイマー、アルバイト等を含む)に適用されますがご存知ですか?

≪労働基準監督署の調査について≫

26、最近の傾向として、労働基準監督署の調査は「労働条件に関する自主点検の実施について」というアンケートで自主点検結果を報告させて、改善が必要な項目が多い事業所や対応が不誠実な事業所を調査対象とする場合があることをご存知ですか?

27、上記「労働条件に関する自主点検の実施について」というアンケート調査を受けたことがありますか?

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