社保研レポート/精神疾患のプライマリ・ケアと紹介への留意点を解説  PDF

社保研レポート/精神疾患のプライマリ・ケアと紹介への留意点を解説

第638回(2月10日)「他科のための精神疾患について」
講師:高木神経科医院院長 浜垣誠司氏

 どの先生でも専門分野の対応はスムーズにできるが、専門外となると苦慮するものだ。今回、浜垣誠司先生の精神疾患についてのご講演を拝聴した。

 精神科領域の疾患も、その多くは各診療所がプライマリ・ケアを担っているのが現状である。抑うつ症状のある患者の初診は、内科、婦人科、脳外科の順で、次に精神科、心療内科と続く。これら患者の25%に何らかの精神医学的な問題があると言われており、放置されれば、深刻な事態(自殺)へと発展する場合もある。1998年に自殺者が年間3万人を突破してから、十数年続いている。これら自殺に至った人の40%は、3カ月前までに、精神科以外の科を受診しているという(高齢者では60%)。

 患者の自殺リスクの適切な評価や予防は、熟練した精神科医にとっても困難を極めるが、プライマリ・ケア医はそのリスクを減らすべく関わるという役割を持っている。精神科的治療が必要と感じたら、いかにうまく患者を精神科受診へと導くか、精神科との連携、紹介が重要となってくる。しかし患者の側に精神科に紹介されることへの抵抗感があり、憤慨したり、見放されたと感じる人もいる。またどのような病状なら精神科に紹介すべきか、その基準線は、患者とプライマリ・ケア医と精神科医の相互の信頼関係により、それぞれのケースで変化し、紹介閾値とも呼ばれている。

 プライマリ・ケア医の診断の目安は、(1)気分障害(2)不安障害(3)精神病群(4)物質関連障害(5)器質性とその他の障害―に分けることである。

 (1)気分障害は単極性のうつ病や、双極性の躁うつ病が含まれる。特に双極性のものは躁転することへの注意が必要であり、早期に精神科への紹介が必要となる。うつ病の場合は病状を理解し、治療できるものであることを説明し、不安の軽減を図る。自殺のリスクへの対処としては、希死念慮の有無について質問して確認することが必要で、ある場合は気持ちを受け止めた、理解したという態度を示して、速やかに精神科への紹介が大切である。患者と約束をするのも助けになる。

 (2)不安障害は、パニック障害、全般性不安障害、PTSDなどが含まれる。パニック障害は、動悸、息苦しさ、めまいなどがあるが内科的には異常はない。常に不安の続く全般性不安障害は不定愁訴となって表現されていることが多い。

 (3)精神病群では、統合失調症がその代表であり、典型的な症状は、主に被害的内容の幻聴と妄想である。病識が欠如しているため、病気の説明はほとんど無理であるが、精神科受診の必要性の説明は行うべきである。

 (4)物質関連障害は、アルコール依存症や薬物中毒が含まれる。治療は本人の自覚と摂取を止めること以外にはない。節酒ではなく断酒である。

 (5)器質性とその他の障害としては、認知症や摂食障害が含まれる。多くは内科医が対応しているが、精神科の関与が求められるのは、徘徊、暴言、拒絶などの周辺症状やせん妄がある場合である。周辺症状は、覚醒意識下での症状であり、せん妄は覚醒レベルが低下した状態での幻覚や興奮である。

 本講演は、自殺への進展の防止がメインであり、大変有意義なお話であった。自殺防止のために、多忙な医師だけではなく、行政や民間でも様々な取組みが行われてきている。最近では、西本願寺の僧侶たちが中心となった電話相談も始まるなど、社会全般での活動が広まっていくことが望まれる。

(上京東部・草田英嗣)

講演する浜垣誠司氏
講演する浜垣誠司氏

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