医事紛争と医賠責考える 10年度医療安全シンポジウム開く
協会は3月12日午後、京都市内のホテルで「医事紛争と医師賠償責任保険」と題して医療安全シンポジウムを開催した。当日は会員や会員医療機関の従事者ら104人が参加、4人のパネリストの話題提供の後、熱心に討論・意見交換した。例年であれば、パネリストは協会外から召喚するのが恒例であったが、今回は前回の50周年記念開催と同様に、実際に紛争解決に携わっている協会担当理事の貫戸幸彦副理事長、林一資理事に加え、医師賠償責任保険取扱会社の損害保険ジャパン・新関(にいぜき)秀教課長と、実際に京都で医療裁判を担当している江頭節子弁護士が、医事紛争の事例を紹介すると共に、各専科領域に限らず問題提起をした。
前医批判から紛争化
最初に、林理事が協会運営の「医師賠償責任保険処理室会」の紛争対応の流れを紹介した後に、「医事紛争における前医批判の問題」について報告した。その中で、医事紛争となる背景には、少なからず前医批判が関わっていることが認められることから、あらためて医師の職業倫理規定を確認するとともに、実際に前医批判を発端とした紛争事例を幾つか紹介した。更に、医師と患者の意識のギャップが見られる典型として、患者は虫垂炎を「簡単な病気」と捉えることから、参加者全員に注意を促した。また、患者には前医がいるかもしれないことを前提に説明することや、前医の治療を疑問に思った際は、安易に患者に伝えるのではなく、先ず、その前医に経過確認を取ることを勧めた。
対応困難な患者の例
貫戸副理事長は、「対応困難な患者側の場合」について、協会の経験を踏まえて報告した。いわゆる「示談屋」の手口とその対応法を紹介して、実際に京都で発生した、示談屋や暴力団員に関わる紛争事例を幾つか紹介した。ケースによって、協会へ連絡する場合と、警察に連絡する場合があることを具体的に述べ、決して医療従事者個人で対応しないことを強調した。何れにしても、何か会員・医療機関が不安に思われることがあったら、先ずは協会へ一報していただくことを重ねてお願いした。
安心な協会の医賠責
損保ジャパンの新関担当課長は、「医師賠償責任保険について」報告。実際に協会で運営されている医賠責保険の歴史とともに、最近の医療裁判の動向を紹介した後、保険制度の概要を解説した。その主な内容は支払する保険金の具体的内容で、医賠責は交通事故の保険と比較して、若干その内容が複雑であるので注意を呼び掛けるとともに、損保ジャパンと協会は常に連絡を取り合い連携しているので、万が一の紛争時には、安心して任せていただきたいと述べた。
裁判と医賠責保険
江頭弁護士は、実際に医療裁判を担当している弁護士の観点で「裁判例から学ぶ医師賠償責任保険の仕組みと注意点」について報告した。先ず、保険事故・保険期間・通知義務についての定義を確認するとともに、医賠責の適用に関わる裁判例を幾つか紹介した。紹介された裁判例は、広島県、東京都、岩手県のものであり、京都では協会が損保会社と強い連携を取っていることで、医賠責の保険金に関わる裁判事例や大きなトラブルがないことを報告するとともに、弁護士としても協会の「医師賠償責任保険処理室会」があることで、弁護活動がやり易く、保険加入者(会員)にとっても、より近しい保険制度となっていることが、あらためて主張された。
質疑応答では、注射による感染や、勤務医の求償問題などについて活発に討議された。なお、当日の詳細は冊子に纏め、全会員に5月末までに発送する予定。
医療安全シンポで発言する(左から)江頭・新関・貫戸・林氏