主張/日本のワクチン行政はどこへ向かうのか?  PDF

主張/日本のワクチン行政はどこへ向かうのか?

 3月4日、厚生労働省は乳幼児へのワクチン同時接種による死亡例が相次いだことを受け、公費での接種費用補助をしているインフルエンザ菌B型(ヒブ)ワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの接種を、当面見合わせる方針を固めた。京都市でも1月からこれらのワクチン接種の公費負担が始まり、接種者数が急増している最中の出来事であった。日本小児科学会が1月19日付けで、ワクチン同時接種は必要な医療行為であるという声明を出したところでもあった。3月8日に専門家などで構成する厚労省の調査検討会が開催され、「現段階ではワクチン接種と死亡の間に明確な因果関係は認められない」と結論づけた。2週間後をめどに開催される検討会で最終結論を出すとのことである。

 今回の厚労省の対応には様々な意見が出ているが、短期間に5人の乳幼児が相次いで接種後に亡くなったことは見過ごせない事態であり、因果関係を検討するためには接種の見合わせはやむを得ないと思われる。問題は今後の厚労省の対応であろう。約20年前に麻疹、風疹、おたふく風邪を予防するMMRワクチンの副反応で無菌性髄膜炎が多発し、最終的にMMRワクチンが中止されたという経緯がある。最近では日本脳炎ワクチン接種後に急性散在性脳脊髄炎を発症した例がでたことから、厚労省より接種の積極的勧奨を控えるように勧告がだされ、新型ワクチンが発売されるまでの約4年間、事実上日脳ワクチン接種ができない空白期間が生じたことは記憶に新しい。

 世界中でヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンが何の問題もなく接種されていて、乳幼児にとって死亡または後遺症を残すリスクが高い細菌性髄膜炎を激減させた事実をどう考えるのか。これらのワクチンを、髄膜炎のリスクが最も高い乳幼児に効率よく接種するには、複数ワクチンの同時接種は不可欠な方法であるが、今後それをどうするのか。もし、MMRワクチンのように接種の中止という判断に至れば、日本は未来永劫ワクチン後進国からの脱却はできなくなるであろう。

 副作用被害が疑われる事例が生じた場合には十分なサーベイランスを行い、被害を最小限に食い止めつつ、ワクチンのメリットを最大限に享受できる方法を探ることこそ薬務行政が果たすべき役割である。また厚労省にすべてを託するのではなく、小児科学会、ワクチン学会、日本医師会などの医師の団体がそれぞれに意見を集約し積極的に声明を出すべきである。厚労省がその声に耳を傾け、最善の決断を下すことを期待したい。それには現状のような厚労省だけのワクチン行政では限界があり、米国のACIP注)のようなワクチン問題を討議する、国から独立した恒久的組織の構築が必要であろう。日本のワクチン行政は今まさに岐路に立たされていると言える。

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