人の尊厳貶める「人体展」医療者・弁護士らが訴え 医学・医療の倫理を考える講演会開く  PDF

人の尊厳貶める「人体展」医療者・弁護士らが訴え
医学・医療の倫理を考える講演会開く

 協会などが主催する講演会「医学・医療に関わる倫理について考える―人体の不思議展開催中止運動をきっかけとして」は2月20日に開催され、医療関係者など65人が参加した。開会に際して関理事長は「京都府警に告発をしたことや厚労省が『標本は遺体』との認識を示したことで、取り組みが進んだ。人は死んでも尊厳が守られなければならず、本日は議論を深めたい」と挨拶した。

 初めに、「人体の不思議展を考える京都ネットワーク」呼びかけ人で京都法律事務所の小笠原伸児弁護士が、京都展開催中止運動について報告。最も重大な問題点が本物の死体を営利目的で展示したことにあるとした上で、主催者を京都府警に告発し、民事訴訟を提起したのは、倫理的問題に止まらない法的問題を解明しない限り、8年続いてきた同展を中止させることはできないからと述べ、問題点を詳細に解説した。また、ネットワークの目的は、人体の不思議展の開催中止であり、二度と開催させないために民事訴訟の中で実体的違法を問うているとして、支援を呼びかけた。

 続いて、「人体の不思議展に疑問を持つ会」のメンバーで福島県立医科大学講師の末永恵子氏が、人体の不思議展の倫理的問題について講演。死体は特別の敬意を払う対象であるにもかかわらず、標本はその由来がわからないこと。故人の意思も証明されていないこと。ポーズをとらされるなど展示方法が適切でないこと。本物を使う必然性に疑問があること。市場経済下で進む死体の商品化とその是非などについて詳しく解説した。また、医学・医療団体による権威付けなど、専門家による正当化が同展を後押しした事実を明らかにし、過去の経緯を検証し反省することが必要とした。そして、死体の尊厳を損なう扱いは、ひいては人間の尊厳を貶める危険性につながるとして、同展と決別するときがきていると結んだ。

 フロアからは4人が発言。京都民医連中央病院病理医の若田泰氏は、戦争中の医学犯罪の実態とその当事者が戦後も医学界の中心にいたことを取り上げ、無反省が人体の不思議展との共通点であることや、「過去を省みることのできない者は再びそれを繰り返す」との言葉を引き、事実を検証し社会的に発言・行動することが重要だと述べた。次に渡邉理事が、同展を見ての自身の思いを発言。初手術の際、傷ひとつない皮膚へなかなか最初のメスが入れられなかったとき、指導医がじっと待っていてくれていた優しさに触れ、このような思いも今回の問題とかかわってくるのではないか。プラストミックは半永久的に遺体を保存する技術としてはすばらしいが、その反面、相手を思いやり、尊厳を守るという大切な感覚を失わせる可能性があることを忘れてはならない、と警鐘を鳴らした。

 石川県からは、金沢市の城北病院副院長の斉藤典氏が、石川での取り組みを報告。県医師会が反対をし、また、いろいろと手立てを考え開催を中止させようとしたが、開催告知が出てしまったことが大変ショックであったこと。それでも、京都とともに石川でも告発にこぎ着け、現在は積極的に警察の捜査に協力していることを報告した。

 京都工芸繊維大学名誉教授の宗川吉汪氏は、これまで同展が続いてきた背景に、我々の人権意識の低さ、科学を偽装した死体展示、それを後押しした学会や医学界を代表する医学者があったことを指摘。世界人権宣言やユネスコの生命倫理と人権に関する世界宣言を引用し、個人が特定される人体標本は作成すべきでない、海外からも輸入すべきでない、と述べた。

 質疑も活発に交わされ、「人体の不思議展を後押しした社会のありようこそ、私たちに投げかけられている課題」との飯田理事の閉会挨拶で締めくくった。

講演する小笠原弁護士と末永氏
講演する小笠原弁護士と末永氏

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