主張/「人体展」主催者だけの問題でない  PDF

主張/「人体展」主催者だけの問題でない

 昨年12月から本年1月にかけて京都市勧業館で開催された「人体の不思議展」について、京都府保険医協会が中心になって、開催の違法性を告発していたが、2月1日京都府警が正式に告発状を受理し死体解剖保存法違反の疑いで捜査がはじまった。

 本来、死体の利用は刑法違反である。それを医学の教育・研究に限って違法性を阻却するために死体解剖保存法が定められている。しかし、それ以外の目的であっても、「遺族の承諾を得、かつ、保存しようとする地の都道府県知事の許可を受け」ることで、死体の保存を認める同法第19条の規定があるが、「人体の不思議展」の主催者からは申請がなされていないので、同法違反での告発となった。

 このような違法な展示が、なぜ今日まで続いてきたのか。「人体の不思議展」のルーツは、1995年3月に開催された日本解剖学会百周年記念事業の「プラスティネーション」展までさかのぼる。これは世界初のプラスティネーション展示であった。同年9月、国立科学博物館での「人体の世界」展では、初めて一般に公開された。翌96年から99年には巡回展が実施され、当時の図録を見ると、主催はハイデルベルク大学プラスティネーション研究所と人体の不思議展監修委員会となっている。委員長は織田敏次氏(東大名誉教授)、森亘氏(日本医学会会長、当時)。委員には、井村裕夫・高久史麿・養老孟司氏等が東大・京大名誉教授等の肩書きで名を連ねている。

 02年からは、現在まで続く新しい「人体の不思議展」が始まる。最初の大阪展では、読売テレビと人体の不思議展監修委員会などが主催し、後援には日本赤十字社、日本医学会、日本医師会、日本歯科医学会、日本歯科医師会、日本看護協会、大阪府・市教育委員会、大阪府医師会、大阪府歯科医師会、大阪府看護協会が名を連ねた。

 このように医学界のそうそうたる面々が後ろ盾となり、マスコミも主催者となって進められたイベントが「人体の不思議展」だったのだ。展示には問題があると訴えたところで、その声は大きくなり得なかったのであろう。このような体制での開催は、07年ごろまで続くこととなる。結果、この本物の死体を商業展示するイベントは、日本各地で次々と開催され、650万人ともいわれる実に多くの観客を動員してきた。

 このほど日本解剖学会は、「営利を主目的にしない学術的・教育的な企画においてのみ許容され」るとした「人体標本の展示に関するガイドライン」を定めた。日本医師会でも「人体の不思議展」の是非について議論が始まっている。同展を無批判に後押しした医学界の「反省」は、ようやく始まったばかりである。

ページの先頭へ