外科診療内容向上会レポート  PDF

外科診療内容向上会レポート

伊達洋至京大教授が肺移植の現状を講演

 外科診療内容向上会を11月13日、京都外科医会、京都府保険医協会、大日本住友製薬株式会社の共催で開催した。京都大学大学院医学研究科器官外科学講座呼吸器外科学教授の伊達洋至氏が、「肺移植の現状」について講演した。

外科診療内容向上会のもよう
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 講演は、我が国における肺移植の第一人者である伊達洋至先生により日本の肺移植の現状について、その適応、手術手技及び手術成績等を非常にわかりやすくお話いただいた。また様々なケースの手術を動画で供覧いただいたが、その大胆かつ精密な手術手技は感銘に値するものであった。

 さて、世界的にみると1983年に始まった肺移植は2万9千例を超えているが、日本の肺移植は98年に伊達先生が初めて行った生体肺移植に始まり、2010年9月までに172例にとどまっている。肺移植の適応となる疾患は16以上あり、内科的治療では余命が限られている末期呼吸器疾患が適応となる。最も多い疾患は特発性肺動脈性肺高血圧症であり、肺リンパ脈管筋腫症、特発性間質性肺炎、閉塞性細気管支炎と続いている。

 肺移植は脳死肺移植と生体肺移植に分けられる。脳死肺移植はドナーが少ないことから感染性疾患や肺高血圧疾患を除いて片肺移植が行われる。肺移植の必要な患者は肺移植認定施設(東北大学、独協医科大学、京都大学、大阪大学、岡山大学、福岡大学、長崎大学)のいずれかの施設で肺移植の適応判定を受ける。肺移植の適応の患者は日本臓器ネットワークに登録され、脳死ドナーが出現すると待機期間の長い患者からレシピエントに選ばれる。現時点では患者の重症度は考慮されない。

 生体肺移植は2人の健康なドナーから右あるいは左下葉を提供し、これらを患者の両肺として移植する。生体肺移植は健康なドナー2人から肺の一部を提供するという犠牲の上に成り立つ移植方法であることから、脳死肺移植の適応患者のうち、病気の進行が早くこれ以上待てない患者が適応となるのが一般的である。日本においては、ドナーは2親等あるいは3親等以内の血族あるいは配偶者に限定されている。患者が小児の場合はほとんどの場合、母親がドナーとなっている。日本全体の肺移植の成績であるが、10年9月までの12年間に7施設において172例が施行され、内75例が伊達先生によって施行されている。脳死肺移植は76例施行され5年生存は69・9%であり、生体肺移植は96例施行され5年生存率は81・9%である。この成績は他国に比べ良好なものであり、特に生体肺移植の生存率の高さは世界から注目されているところである。

 10年7月の臓器移植法の改正により、脳死肺移植は確実に増加しているとのことで、移植数が増加しても良好な成績を維持できるシステム作りが重要であることを強調された。最後に伊達洋至先生は世界に誇れる外科医であるとともに、マラソンランナーであることを付け加えたい。

(西京・曽我部俊大)

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