医療・福祉・介護シンポジウム 真の地域包括ケア実現を
超満員の会場で熱気溢れる議論
協会は12月23日、中京区のハートピア京都大会議室で医療・福祉・介護シンポジウム「国がすすめる地域包括ケアについて考える」を開催した。会場には定員を超える270人の参加があり、真の地域包括ケア実現に向けた議論を熱心に聞き入った。
聴衆で埋めつくされた会場
シンポジウムは、垣田さち子副理事長の司会で進行。関浩理事長の開会挨拶に続いて、国が進めている「地域包括ケアシステム」構想について、渡邉賢治理事がパワーポイントを用いて報告した。
国構想は高齢者の権利保障に基づいていない
渡邉理事は、介護保険制度見直しに向け、社会保障審議会介護保険部会がまとめた「介護保険制度の見直しに関する意見」(2010年11月30日)で強調された「地域包括ケアシステムの構築」は、その前段に地域包括ケア研究会報告書(10年3月三菱UFJリサーチ&コンサルティング)があることを紹介し、研究会報告書で語られた構想の内容と国の意図を整理し、説明した。
地域包括ケア構想について研究会報告書は、「おおむね30分以内の日常生活圏内(≒中学校区)で、医療・介護のみならず、福祉・生活支援サービス等が一体的かつ適切に相談利用できる提供体制」と定義している。こうした構想の背景として報告書は、現在在宅サービス利用は伸びているものの重症者を支えきれない。看護職員・介護職員が基礎的な医療行為をできない等の実態があり、結果、医療が必要になると施設や病院に依存している。地域完結型(在宅で完結)にするために地域包括ケアシステムの構築が必要と述べる。そこで、「自助・互助・共助・公助」の役割分担を明確にし、それぞれが特性を生かして連携し、高齢者を支えていくシステムの構築が必要、としている。
しかし渡邉理事は、地域連携のシステム構築の必要性は当然、と前置した上で、国の構想は持続可能な制度維持を目的にした「財政問題」を優先させ、介護保険制度を運営する側からの一方的な視点で示されており、高齢者の権利保障のための地域包括ケアシステムとは言えない、と指摘した。また役割分担でも、在宅医療を担う医師の役割を後景に追いやりつつ、看護職員・介護職員の基礎的な医療行為の権限拡大に論及していることも批判し、そもそも「公」の役割も論じず、「給付抑制策」を主目的にした論議の俎上に安易にあげるべきテーマではないと指摘した。
尊厳守られるケアの「社会的な保障」を
基調講演の岡祐司氏
続いて、佛教大学社会福祉学部教授・岡祐司氏が「高齢者のケアと地域生活保障」をテーマに基調講演した。
岡氏は介護保険制度の給付構造(現物給付の否定)と地域医療後退、その背景にある新自由主義路線を批判。国の地域包括ケア構想が、(1)住みなれた地域、居住での生活の継続、(2)「本人の選択」、(3)自己能力の活用を高齢者ケアの原則であるかのようにしていることを指摘し、本来の社会福祉としてのケアは、(1)日常生活の維持・継続、(2)市民として文化的で潤いのある生活、交流のある生活、その人らしい生活をつくる、(3)社会参加、社会活動など市民としての社会生活の確保、の3つで構成し、生活場面で個人の尊厳を守り、不安、行動、疾病と寄り添うことが基本であるべきと述べた。その上で、新自由主義国家から新しい福祉国家へ舵を切り、高齢期の生活保障のための政策体系の再構築を目指すこと。同時に「地域包括ケア」の前向きな発想を活かし、高齢期に病気、障害があっても、人としての尊厳が守られるケアを「社会的に保障」するあり方を目指そうと提起した。
シンポジウムは引き続き岡氏をコーディネーターに、荒牧敦子氏(公益社団法人認知症の人と家族の会京都府支部代表)、西村繁雄氏(福西社会福祉協議会会長)、塚本忠司氏(開業医)、北尾勝美氏(京都市伏見福祉事務所ケースワーカー)、酒井伸香氏(京都市成逸地域包括支援センター主任介護支援専門員)の5氏から発言。家族・地域福祉・医師・自治体ケースワーカー・地域包括支援センターそれぞれの立場から、高齢者介護、在宅療養をめぐる実態と将来展望を出し合い、求められる地域包括ケアのあり方を議論した。またフロアからは、施設介護の立場から廣末利弥氏(社会福祉法人七野会理事長)、記者の立場から本田貴信氏(京都新聞記者)の発言があった他、市民・当事者からの発言があった。
上左から荒牧・塚本・西村、下左から北尾・酒井の各氏
医療・福祉・介護分野の共同を
発言を受け、「私たちの要望―真の地域包括ケアを実現するために」を飯田哲夫理事が発表した。国がすすめる地域包括ケア体制は、国の医療費適正化策と一方で進められる地方自治体の保健・福祉施策の後退が相まって登場していることを指摘。地域包括ケア体制実現のためには、政策の基本に「生活のケア」の実現を据え、「介護保険制度と財政の枠組み」を超えたところでの議論が必要と強調した。生活のケア保障の財政的・人的な責任は国が、その実現は地方自治体が担うべきで、当面は地域包括支援センターが役割を十分に果たし得る人員・財政の抜本改善を行うよう求めた。
最後に尾崎望理事が閉会挨拶を行い、こうした取り組みの必要性と、引き続き医療・福祉・介護分野が共同し、この問題を取り上げ、社会的にアピールすることが大切だと呼びかけた。
なお、詳報については緊急に書籍にまとめる方向で現在作業を進めている。ご期待いただきたい。