代議員及び整形外科会員対象アンケート/医業類似行為について  PDF

代議員及び整形外科会員対象アンケート/医業類似行為について

調 査=4月28日〜5月21日(代議員)、8月13日〜9月10日(整形外科会員)
対 象=387人(代議員95人、整形外科会員287人)
回答数=133(代議員43、整形外科会員90)
回答率=34%(代議員45%、整形外科会員31%)

 2009年11月に行われた行政刷新会議の事業仕分け第1弾で、「柔道整復師の療養費に対する国庫負担」が仕分けの対象となり、「柔道整復師の3部位請求に対する給付」は見直すとの結論が出された。今回仕分けの対象となった「柔道整復師の療養費」とは、整骨院や接骨院での施術に対して医療保険から給付される費用のことで、その額は07年度で3377億円と推計されている。またその伸び率も、柔道整復師の急増もあってか国民医療費の伸び率を上回っている。事業仕分けで交わされた議論では、不自然な保険請求が行われているとの指摘や、一方で審査機関の機能が十分でないとの指摘がなされている。そこで、医業類似行為への意識と現状を調査することで、課題を明らかにするために、今アンケートを実施した。同じ調査票を用いて、代議員95人と整形外科会員287人にご協力をいただいた。概要は以下の通り。

 回答のあった代議員の、医療機関形態は開業医比率が9割で、主たる診療科(専門化)は内科が63%、次いで整形外科、小児科が9%であった。

 整形外科会員のうち、9割近くに他の標榜科があり、リハビリ科、外科、リウマチ科の順で多かった。

医療類似行為の保険給付はほぼ周知

 柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師が行う医業類似行為のうち、それぞれ一定の条件を満たせば医療保険からの給付を受けることができることを知っているか聞いたところ、ほとんどの人が知っており、整形外科会員で知らないとの回答はなかった(図1)

(図1)

 続いて、資格別の保険給付の条件について知っているか聞いた。

 まず、柔道整復師の業務で保険給付の対象となるのは、骨折・脱臼(応急時を除いて医師の同意が必要)、打撲・捻挫への施術に限られていることを知っているか聞いたところ、8割以上が知っており、整形外科会員では9割を超えた(図2)

(図2)

 あん摩マッサージ指圧師の業務で保険給付の対象となるのは、筋麻痺・関節拘縮等へのマッサージで、医療上の必要があるとの医師の同意書があるものに限られていることを知っているか聞いたところ、約9割が知っていた(図3)

(図3)

 はり師、きゅう師の業務で保険給付の対象となるのは、主として神経痛、リウマチ、およびこれら疾病と同一範疇と認められる類症疾患(頚腕症候群、五十肩、腰痛症、頚椎捻挫後遺症等の病名であって、慢性的な疼痛を主訴とする疾患をいう)で、ほかに適当な治療手段がないという医師の同意書がある場合に限られていることを知っているか聞いたところ、8割以上が知っていた(図4)

(図4)

柔整に限り受領委任払い

 医業類似行為にかかる保険給付は療養費となり通常償還払いとなっているが、柔道整復師に限り、被保険者(患者)からは自己負担金相当額を受け取り、残りを保険者に請求する受領委任払い(見かけ上、現物給付と同じ)制度がとられていることを知っているか聞いたところ、知っているのは代議員では半数に満たなかったが、整形外科会員では約8割が知っていた(図5)

(図5)

半数が同意書作成の経験

 医業類似行為の現状について聞いた。

 まず、医業類似行為への同意または同意書を書いたことがあるか聞いたところ、代議員では6割超が、整形外科会員では5割があると答えた(図6)

(図6)

 同意または同意書を書いた頻度については、「年に数回」が代議員で約6割、整形外科会員で7割5分、「月1〜4回」が代議員で3割、整形外科会員で1割強で整形外科会員の方が少なかった。代議員では「月5回以上」との回答も若干あった(図7)

(図7)

 その時の具体的状況については、患者や家族からの強い希望があったり、それに対して断りきれないとの回答が多く、その割合は整形外科医で高かった。そのほかには拘縮防止や疼痛緩和のためという回答があり、そのうちのいくつかは施術の内容についても指示をした上で、指示通り実施されているか定期的に確認しているとのことであった。また、訪問リハビリだけでは対応が難しいためとの回答もあった。

同意疾患への診療制限、診断責任も

 医業類似行為への同意または同意書を書いた場合、その疾患についての保険診療や投薬の一部または全部が制限されることを知っているか聞いたところ、知っているのは代議員で6割強、整形外科会員約7割5分であった(図8)

(図8)

 さらに、医業類似行為への同意または同意書を書いた場合、患者に施術にかかわる事故が発生した際には、同意を与えた医師には診断責任が残存しており、施術同意責任が問われることも否定できないと言われている(昭57・3・30長野地裁判決)ことを知っているか聞いたところ、知っているのは代議員では6割に届かなかった(図9)

(図9)

症状が悪化した患者の診療経験も

 医業類似行為を受けて症状が悪化した患者が受診した経験の有無について聞いたところ、「ある」と答えたのは代議員では2割強にとどまったが、整形外科会員では7割近くに達した(図10)。悪化した経験の頻度については、「年に数回」が7割であった(図11)

(図10)

(図11)

 その時の具体的な状況については、「多発性骨髄腫の治療が遅れ死亡」「「頚部のハリ・マッサージ等後四肢麻痺」「骨折や神経麻痺を見逃し重度の後遺障害」「腰椎カリエス患者に2年間施術」「脊椎圧迫骨折(高齢者)」「肋骨骨折」「腰部マッサージで骨粗鬆症悪化」「肝硬変患者にマッサージで全身に皮下出血」「骨折の見逃し」「上腕骨頚部骨折を見逃し偽関節発症」「左上肢悪性腫瘍を五十肩と判断」「人工関節にマイクロ波を照射して変形治癒」等、重大な健康被害が起こっている実態が報告されている。

医業類似行為の課題

 最後に、医業類似行為に関して感じていることや課題を聞いた。

 まず多かったのは、受領委任払い制度を撤廃すべきという意見であった。医師の同意については、同意をするべきではないという意見、患者ではなく施術者自らが請求すべきという意見、また初回のみではなく継続して同意を得る必要のある仕組みにすべきとの意見などが寄せられた。そして、昨年会計検査院の調査で柔道整復師の施術について、請求内容と患者の申告した症状が6割以上食い違っていたとの報道があったように、3カ所以上の多部位請求が多い点など、不自然な保険請求例を問題視し、審査機関の強化を求める意見も多かった。そのほか、誇大広告が目に余ることを指摘するもの、柔道整復師の養成校が多すぎることも指摘された。このように、保険医療機関と医師養成に関わる規制や保険請求にかかる審査と比べて、柔道整復師等の養成のあり方や審査の仕組みには改善すべき点が多いことが明らかとなっている。

 代議員への調査では、訪問リハビリなどの保険診療が十分対応しきれないところに医業類似行為が対応している部分(在宅寝たきり患者の拘縮防止など)があるとの意見もあった。この意見への感想を整形外科医に聞いたところ、同意する意見もある一方で、効果を疑問視する意見や、OTやPTが在宅でもっと活躍できるよう仕組みをあらためることが先との意見もあった。

◇ ◇

 さて、事業仕分けの結果を受けて10年度診療報酬改定では、柔道整復療養費の算定基準が一定見直された。先の会計検査院は厚生労働省に対して審査の厳格化や、請求基準を明確にするよう求めており、今後それらが的確に実施されることに期待するとともに、整形外科に限らず各科の医師がしっかり関心を持ってこの問題を考え、市民やマスコミにきちんと情報提供を行っていくことが重要であろう。

 なお、アンケート結果の詳細はメディペーパー京都1月号で報道する予定。

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