医療安全対策の常識と工夫(28)
医療従事者の日常と患者の非日常
医療従事者にとって病院・診療所は職場であり、患者さんと接することは「日常」そのものです。一方、患者さんにとっては病気になったり、傷を負って来院することは、その多くが「非日常」で、多少なりとも不安感や緊張感を伴うものです。つまり、院内はその「日常」と「非日常」の接点となっている訳です。
このことは当たり前の話なのですが、意外に見過ごされているのではないかと思われることがあります。医療従事者は仕事に忙殺され、一方、患者さんの中には通常の精神状態でない方もいるでしょう。そこには双方のコミュニケーションの障害となるものが横たわっています。医事紛争のベースもこの辺りにあるのかも知れません。
ひとたび医事紛争が発生すると、ほとんどの患者さんやその家族は、自分は大変な目に遭わされた被害者で、医療機関側がその元凶であり加害者である、と判断します。その時点で患者さんはある面では理性を失い、「全ては医者が悪いんだから何とかしろ!」と、自己中心的に物事を進めようとする傾向がみられます。中には具体的要求を提示せず、全て医療機関に対応策を任せて、その結論が気に入るまで批判を続けるといった姿勢の方もおられます。医事紛争は感情の拗れを伴うものですが、診療と同様に紛争解決もまた、患者さんとのコミュニケーションなくしてはあり得ません。例外として代理人を立てて法的に解決することも、手段の一つではありますが、双方にとって好ましい、納得のいくものが得られるとは限りません。
つまり、全ての基本は患者さんとのコミュニケーションです。もちろん、これは簡単なことではありませんが、紛争が起これば、どうやら医療機関側の「根気」が必要とされることに間違いはないようです。この根気こそが結果的に「誠意」に結びつくこともあると考えますが如何でしょうか?
次回は、患者さんへの対応についてお話します。