自由詩コーナー/谷口 謙 選  PDF

自由詩コーナー/谷口 謙 選

 残照

加藤善郎

磯(そ)馴れ松の林をくぐると
果てしない白砂のビーチ
手をかざしても誰も居ない
海もビーチも風も独り占め
何とも言えぬしあわせ
でもやがて来た残照と落日
瞳を凝らすと
遅れた天女ひとり慌てて
天に向って帰ってゆく
いつしか辺りは一面の漆黒
聞こえるは谺する汐騒

 微小貝の春

m.

静かな浜
花びらが舞って
砂の上

貝が動いた
やどかりだな
それにしても小さいな
もう四時だ
僕は砂浜を去った
貝たちが必死に動いていることも知らずに

 生き方

門林岩雄

強くなくても
きれいでなくても
生きられる
ひたすら尻尾(しっぽ)をふればよい
これは犬から教わった
……しかしおれには
尻尾がない!

 さかしら口

ちっちゃい草履の
ちっちゃい子
すぐさかしらに言いにくる
「おとうさんのブー
バスにぶつかった」
孫、円 三歳三カ月

 盆の夜

物陰にひそみ
黙(もだ)す人よ
姿を現し
話しておくれ
魂の触れ合う
盆の夜なれば

 「私を前へ前へと進ませるものは、独りの少年の姿である。クリクリ顔、小さな背中、細いうなじ――それは少年時代の私の姿である。この少年を悲しませたくない(自分の末路が精神的に落ちぶれた老人であれば、どんなにか悲しむだろうと思うのだ)という強い思いが、私を前へ前へと進ませる活力となっている。この少年に、詩は面白いよと語りかけながら、詩の可能性に風穴をあけ、新しい風景を見、新たに生きる力が湧いてくることを願いながら、楽しい明日を信じて生きてゆこうと思っている」(山崎睦男)

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