主張/高齢者を皆で見守れる地域社会を取り戻そう  PDF

主張/高齢者を皆で見守れる地域社会を取り戻そう

 介護保険法は走りながら考える制度として始まった。条文の最後に「施行後5年を目途としてその全般に関して検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直し等の措置が講ぜられるべきものとする」と明記されている。

 06年の第1回の見直しに続いて、施行後10年経過した本年、2回目の見直し作業が社会保障審議会・介護保険部会において急ピッチで進められている。秋にはまとめられ、来年明けの通常国会で審議予定という。

 基本的な論点として、「制度の持続可能性」と「地域包括ケア」の2つが示され議論されている。

 制度を持続させるために給付と負担をどうするか。増え続ける需要に対し、今以上の保険料負担の増加を国民に強いるのは難しく、財源が限られた中では結果として給付を抑える方向で対処する以外にないだろう。

 これに呼応する形で示されているのが「地域包括ケア」の推進である。中学校区ぐらいの単位を基本に住民みんなで自分の地域の高齢者の面倒をみていきましょう。要するに地域のボランティア力が期待されている訳だ。

 10年前、制度が始まった時には介護の社会化が強く謳われた。保険方式にすることで、施しではなく保険料を支払った権利者として遠慮なく制度を利用することができる。1割の負担金を支払うことで自由にサービスを選べる。利用者の尊厳を守るためにも消費者意識は大事といわれた。なのに、今度は互助だという。

 介護が必要なのに一割の負担金が払えなくて受給できない人たちが増えてきた。逆に、お金はあっても欲しいサービスが地域から消えてしまい受けられない事態が進行している。必要な介護が提供できていない。

 重要なのは、自由選択が可能な自立した消費者像からはほど遠い高齢者の実像である。協会が最近行った会員意見調査からは、地域の高齢者の困難な生活実態に直面し共に苦悩する開業医の姿が浮かび上がっている。認知症の増加、独居、老々世帯の増加は、高齢社会が進む中で大きな課題だ。

 地域で、みんなの知恵と力を合わせて取り組む以外に道はないのは確かである。

 10年経った介護保険を振り返って思う。私たちは大きな誤りを犯したのではないだろうか。介護の仕事を時間あたりナンボに換算して、お金を払って売り買いできるものにしてしまったことは間違いだった。人のお世話は難しい。高齢者に関わるにはその人の生涯を引き受ける覚悟が要る。高齢者をみんなで暖かく包み込んで見守っていける地域社会を取り戻すことが、何よりも今、大切なことだ。

 ※協会はこの問題でのシンポジウムを12月23日(木・祝)に開催する予定をしている。

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