続々漂萍の記 老いて後/谷口 謙(北丹)(30)  PDF

続々漂萍の記 老いて後/谷口 謙(北丹)(30)

怪 談

 ぼくたちの時代、全国の寮、寄宿舎のたぐいには怪談なるものがあったのではなかろうか。松江高校の自習寮にもあった。寮の建物は墓山の跡とのことだった。これはわかる。土地代の安いのは墓山跡がトップだろう。購入費が安くすむ。

 夜遅く、自習寮の向かって左の坂道をたどると、ときどき処々に燐光が走るとのことだった。ぼくは夜遅く寮に帰った経験はほとんどなかったから、ことの真偽は知らない。土道の坂で骨片が露出し燐光を放っていたのだろうか。

 次にあかずの便所の話である。昔寮生の1人がその便所で首を吊って死んだそうだ。そこを使用し排便をすませ、戸を開こうとすると、どうしても開かない。こんな話で誰もがその便所を敬遠した。同級だった吉村友三郎から聞いた話。そこの便所の便器の頭部が逆の方向になっていて、排便後つい習慣で入口と反対側を押すとそれは当然開かない。壁である。恐ろしくなってドンドン戸をたたく。これが真相だろうと彼は言った。吉村の出身中学は覚えていないが、一浪だったと思う。姓を牧戸と変えて京都住。賀状の交換だけ続けている。

 大便所についてもう1つ書こう。朝など多くの寮生が大便所を使用するので、外で順番を待たねばならぬこともあり、待って入ると臭いしあまり気持ちのいいものではない。ぼくは一計を案じ、寮から出て土手を少し降りると校舎付属の便所がある。ここは快適だった。早朝は誰もいないし清潔である。ぼくはゆっくり用を足した。

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