主張/地域連携無視した入院患者の他医受診制限は即時撤回を
入院中の患者が他院を受診した場合の取扱いが、今回の診療報酬改定で変更された。詳しくは『グリーンペーパー』164号(4月26日発行)に掲載したが、中医協でほとんど議論されないまま、厚労官僚が自分たちの“専権事項”と発言して導入したこの取扱いについては、各地に大きな混乱を招き、数多くの問題点が指摘されている。出来高の入院基本料を算定する病院の入院患者についても、入院医療機関と外来診療を行った医療機関の相互に算定制限が導入されたことが大きな問題で、特に投薬の制限は、地域医療の崩壊にもつながりかねない現実離れした取扱いとなっている。
入院中の患者が多く受診する医療機関からは、「待合室に『入院中の方は申し出て下さい』と貼り紙やテレビモニタで表示しているが、誰も申し出てくれない」「病院が所定の診療情報を患者に持参させないので入院中の患者を把握できず、処方料などを算定してしまった」「病院に診療情報の提供を依頼したが患者の受診を把握していなかった」「病院では緑内障薬を処方できる体制にないと言われ、仕方なく処方してしまった」「後日、病院から連絡があり数人の患者が入院していることが判明、診療情報を提供する必要があるが、今からでは情報提供料を算定できない」といった悲鳴が届く。病院からも「緑内障薬等、高価で多種にわたるので在庫になると大きな損失となる」「他科受診時には2人のスタッフを数時間も付き添わせているのに、入院料が減額されるのは納得できない」といった苦情も寄せられる。
このように今回の他医療機関受診取扱いの改定にはさまざまな問題点がある。入院中の患者家族が勝手に(知らずに)受診した場合を含め、入院医療機関が所定の診療情報を提供するのを怠ると算定を誤ってしまう可能性が高いこと、眼科の緑内障用薬のように、高価で多種にわたる薬剤を病院側がすべて用意することは採用医薬品の数を膨大な数に増やすこととなり、現実的には無理があること、診療情報提供書の発行医師と、それに基づいて処方する医師の責任の所在はどうなるのか、など現実にはさまざまな問題が残っている。医療機関同士で合議によって薬剤費を精算することも、特に医療法人の場合は現実的には容易なことではない。
今回の取扱いは、例えば眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、精神科などを標榜しておらず専門科医師が勤務していない病院、精神科病院のように専門科に特化した病院を苦しめる一方、専門医療を担う診療所との連携による医療の提供を阻害するものであり、医療の高度化、専門分化が進む中での地域連携を否定するものである。医療の質の低下を招くことは明らかであり、従来通り、行った保険診療はすべて各々請求できるようにすべきだ。これは包括点数である療養病棟、特定入院料算定病棟、DPC算定病棟であっても同じである。入院医療機関、外来医療機関ともに、根拠なき算定制限を導入した官僚の暴走による今回の取扱いは即時撤回されるべきである。