小児科診療内容向上会レポート
抗ヒスタミン薬の小児への使用に警鐘
第35回小児科診療内容向上会を京都小児科医会、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社、保険医協会の共催で4月3日開催、93人が参加した。京都小児科医会理事で京都府国民健康保険診療報酬審査委員会委員の川勝秀一氏が「新点数の留意事項と最近の審査事情」を、滋賀医科大学小児科学講座教授の竹内義博氏が「薬剤の発達脳への影響―抗ヒスタミン薬を中心に―」を講演した。
小児科の向上会のもよう
今回の講演「薬剤の発達脳への影響―抗ヒスタミン薬を中心に―」は、小児の診療で頻用されている第一世代の抗ヒスタミン薬の使用を警鐘する内容であり、小児科専門医でないプライマリ・ケアを中心としている私には新鮮な内容であった。
本講演の演者である滋賀医科大学小児科学講座の竹内義博教授は、現在も抗ヒスタミン薬と痙攣との関連の調査を続けておられる先生である。我が国では欧米と比し熱性痙攣の頻度が高く、また抗ヒスタミン薬の使用頻度も高いとのデータを紹介、この背景から行った予備的調査では第一世代の抗ヒスタミン薬投与群では抗ヒスタミン薬の非投与群と比し、(1)発熱から痙攣までの時間が短い、(2)特に3歳未満では痙攣時間の延長への影響を受けやすく、また局在性の脳波異常がより多く見られたとのことであった。米国食品医薬品局(FDA)は2007年に、医師の処方なしに購入できる風邪薬や咳止めの薬は6歳未満の小児に使うべきでないと勧告、その後、咳止めや去痰剤、抗ヒスタミン薬などを含む一般の感冒に対する市販薬に関しては6歳未満の小児への効果を裏付ける研究成果はないと結論、さらにこの年齢層では薬の副作用をもっとも受けやすいとの意見が出されたという。竹内先生のご意見としては、6歳以上なら抗ヒスタミン薬を処方してもよいが、6歳未満ではどうしても使わなければならない場合は、脳内移行の少ない第二世代の抗ヒスタミン薬を使うべきとのご意見であった。これらに関連した基礎的な研究や症例の紹介、今後の注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療薬に関するお話も興味深く拝聴した。
しかし、この講演に何か物足りなさを感じたのは私だけであろうか? 現在でも小児領域では第一世代の抗ヒスタミン薬は頻用されている(そのデータは他科との比較の形で竹内先生も示されていた)。日本は欧米と違い医療は保険診療であり、フリーアクセスである。風邪症状で医師を受診することは当然のことと受け取られている。子どもを連れて受診する親御さんの気持ちは「風邪に対する治療(処方)をしてほしい」という願いからだ。それに対しプライマリ・ケアの立場では「薬は必要ないですよ」とは言いづらい。それは座長の先生が質問された「我々は代わりに何か使える薬はあるのでしょうか?」という質問に集約されているように思う。今後、竹内先生の研究がさらに発展し、上気道感染の治療が学会のガイドラインとして我々に示されることを期待したい。(伏見・木村 文昭)