主張/地域医療貢献加算の医療安全上の問題点
この4月の診療報酬改定において、診療所を対象に地域医療貢献加算が新設された。この加算の算定要件を満たそうとすれば、基本的には年中無休の24時間待機態勢が必要となる。3月29日付の疑義解釈では、ある程度柔軟な対応も可能なように受け取れるが、それでも医師一人の診療所ではかなり厳しい要件である。
算定要件の厳しさ以外に、医療安全の観点からもこの加算には問題点が存在する。
ひとつはカルテなしでの電話対応の問題である。この加算の算定を院内掲示すると、さまざまな患者からの電話が予想される。自宅開業でない場合、夜間に緊急の電話問い合わせがあっても、手元にカルテが用意できない。受診歴の少ない患者では、カルテがなければ対応は困難である。長期通院の患者でも、直近の検査データや詳細な処方内容はカルテなしではわからない。そのような状況での電話指示は、内容によっては危険である。電話での対応内容が結果的に最善でなかったとしたらどうなるか。患者にとっては不幸なことであり、医師にとっては責任を問われかねない事態となる。もちろん問い合わせのあった患者全員を診察できれば良いのだが、それは現実的に不可能である。
もうひとつ重要な問題は、患者の個人情報の漏洩である。長期通院中の患者本人からの電話であれば何も問題はない。しかし緊急事態では、家族が電話で問い合わせるケースも多いと予想される。したがって悪意をもった第三者が家族と偽って電話をかけてくれば、保護されるべき個人情報の漏洩を防ぐことは困難である。また受診回数の少ない患者の場合、本人からの電話であっても本人確認できない可能性がある。電話に出た医師が「患者あるいは患者の家族と確認する方法がないので対応できない」と答えるのも理屈の上では正しいかもしれない。しかしそのような対応が、最悪の場合は治療に致命的な遅れを生じさせるおそれがあることを考えると、実際には本人と確認できなくてもある程度の対応をせざるを得ない。
地域医療貢献加算は、このような医療安全上の問題をはらんでいる。算定要件と合わせると、診療報酬抑制のため意図的に施設基準取得のハードルを高くしているのではないかとすら思える。さらに地域医療貢献加算という名称は、算定を行わない診療所は地域医療に貢献していないという意味を持たせる名称ともとれ問題を感じる。この加算についてはその是非も含めてもっと議論を重ねるべきであろう。