シリーズ環境問題を考える(101)

シリーズ環境問題を考える(101)

地球温暖化と原子力発電

 「地球温暖化、あるいはCO2原因説は間違い」というキャンペーンは今も根強い。最新の科学的知見をもってしても、地球全体の50年も先までの複雑系である気候を、確実に予測することはできるはずがない(逆に反証が成立するように見えた場合でも、複雑系の条件がすべてそろった反証かの判断もまた難しい)。しかし、その不確実性を理由にした取り組みの先送りは、人類の被害の大きさ、それが事実となったときの回復の困難さゆえに選択することはできない。

 「原発はCO2を発生しない」キャンペーンが、その誤りを指摘され、電力会社自ら止めたのは既に周知の事実である(新たに始めた「原発は発電時にCO2を発生しない」キャンペーンも、正確には「核分裂反応ではCO2を発生しない」というべきであるが)。巨大施設である原発は、その建設に莫大な資材とエネルギーを必要とする(もちろんCO2を発生し、地球温暖化に寄与する)。また原発はその特有の性質とシステムのために、他の発電システムにない消費エネルギーもあり、さらにウランの採掘に始まる各工程でやはり莫大なエネルギーを必要とするため、CO2が発生しないなどあり得ないことである(電力会社は初めからそれを承知でウソのキャンペーンを始めている)。

 しかし、ここで問題になるのは(他の発電と比較するため)、原発のライフサイクルにおけるCO2排出に関する標準化された基準がないため、科学的に信頼できる分析値が得られないことにある。更により深刻な問題は、原発もいずれは廃炉となるが、その処理は確立しているとは言い難いから、どれほどのエネルギーを要するか(どれほどのCO2発生が起こるか)はっきりと示せない。そして何よりも問題なのは、原発運転によって生まれる膨大な放射性廃棄物を、約100万年生命環境から完全に隔離・管理しなければならないが、その確実な方法など誰も知らないままであり、それに必要なエネルギーは計算すらできない(もちろんCO2発生量も)。

 原発は地球の温暖化防止に役立つのではなく、その問題を将来に先送りしているに過ぎないのである。それも大変なリスクをおかして。そして原発が既に経済的競争力を失っているため、「資本家は原発より低コストで、財政的リスクの小さな気候保全手段を好む」との米国のエネルギー研究所の報告も出ているが、では誰が、何のために、原発推進をいうのであろう。

(理事・飯田 哲夫)

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