自由詩コーナー/谷口 謙 選
星座図鑑(83) がか座
m.
夜はキャンバスに向かい
全面
黒色を塗たくる
完成
題して「春の夜空」
暖かさがわかる
冬の山
門林岩雄
椎(しい)はひとりで
葉を鳴らす
さびしさのあまり
蟹
新月の夜
蟹が岩壁 おりてゆく
大群をなし おりてゆく
ゾロゾロゾロゾロ
ガサガサガサガサ
転げ落ちるもの
飛び降りるもの
下は海
暗い海
小春
春めいてきた
自転車のパンク直し
水仙 桜草買って帰ろう
間もなく娘の誕生日
お彼岸
加藤善郎
濛々と立ち込める香煙
四方に充ち充ちたその中に
浮かび出た大きなお寺
父に支えられた弱法師(よろぼうし)
俊徳道へ導かれゆく後ろ姿
四天王の恵みとあの引き合わせ
あれは南門だったか西門からか
今日はお彼岸の中日
今も渝(かわ)らぬ人の群
その西門に陽が落ちる
真中に真直ぐに陽が落ちる
「ある人が瓶に手紙を入れて封をし、海に放つ。瓶はあてもなく海上を漂い、しかし、いつの日かどこかの海岸に打ち上げられて、誰かの手に拾われないともかぎらない。話を書くとは、そのような遠い未知の読者に宛てて手紙を送るようなものだ。……メッセージは言葉から出来ていますから、詩とは言葉が言葉として自律するその強度ということになります。ここに逆説的ながら、現代における話の存在理由が生まれると私は考えます」(野村喜和夫)