改訂版 医療安全対策の常識と工夫(12)
本当の誠意とは?
患者さんに「誠意」を求められたときに、医療機関側はその中身の曖昧さ故に、困惑することが多いようです。医師は若い頃から科学的に思考する訓練を受けてきたからでしょうか、患者さんの抽象的、または非合理的な言い分に、四苦八苦する姿をよく見受けます。
これは1つの提案として受け取って欲しいのですが、「誠意」を求められたときには、患者さんにとっていかに重大かつ深刻な結果であったとしても、「どうしてこのようなことが起こったのか、医学的にも可能な限り調査をしたいと思います。現時点での医療機関側としての『誠意』とは、まずそれを調査することと思います。その結果次第で、今後の態度を決めていきたいと思います」といった返答をしてはいかがでしょうか。つまり、医療機関側から「誠意」を一定範囲において定義付け、今後とも患者さんとの対応を怠らない姿勢を示すのです。
一度、医療内容に不信感を抱いた患者さんは結論、つまり補償、賠償の提示を急がせる傾向が見られます。医療とは必ずしも結果を保証するものでないことを理解していただくには、時間も必要です。患者さんにしても「お金」の話をするのは、実のところ不愉快な方も大勢おられるようです。また、被害者意識で凝り固まった患者さんとしては、自分を蔑ろにされることを最も嫌います。「あなたのことを、いつも気に掛けているのです」という医療機関側の真摯な態度が、患者さんの被害者意識を和らげることも多々あります。
徒に金銭的解決を急がないことは、患者さんの意志に逆らうように思われるかも知れませんが、問題をこれ以上大きくしないためにも、また、少しでもクリアな解決をするためにも必要不可欠なことなのです。
次回は、医事紛争における謝罪の是非についてお話しします。