京都府内の医療はいま 周産期医療の現状
京都の周産期医療の現状について、総合周産期母子医療センター、一般病院、開業医、それぞれから聞き取りを行った。聞き手=尾崎望理事
ネットワークが機能するも人員・病床不足等問題が顕在
京都第一赤十字病院 総合周産期母子医療センター長
中田好則氏
第一日赤をセンターに連携システムを構築
1991年頃、人口100万人に1カ所の総合周産期母子医療センターを設置すべしとの国の方針が出された。京都では1997年11月に、京都第一赤十字病院の改築に合わせて、ここを京都の総合周産期センターとした。センターを中心とした機能連携システムについては、都道府県ごとに任されていた。京都では南北2カ所にサブセンターを置くこととして、北部は舞鶴医療センター、南部は京都府立医科大学病院がそれぞれ担うことにし、さらに府内6カ所の医療圏のそれぞれに最低1カ所の二次病院を置くことにした。二次病院は合わせて16カ所となった。
円滑な運用に不可欠なコーディネーター機能
16カ所の二次病院がすべて同等の機能を発揮できているわけではない。また北部のサブセンターである舞鶴医療センターは、現状では産科医師体制が弱いために、周産期センターとしての機能は発揮できていない。舞鶴共済病院で母体搬送に対応し、その後リスクのある新生児は舞鶴医療センターに移送するというシステムになっている。早期に京都府の指導のもとに、北部地域の周産期医療体制の再構築が待たれるところである。
南部は京都第一赤十字病院総合周産期センターと、サブセンターである京都府立医科大学病院がセンター機能を発揮し、主にバプテスト病院、宇治徳洲会病院、京都市立病院、三菱京都病院などがネットワークを形成して周産期医療に対応している。また京大病院は特殊な疾患に対して役割を発揮しているが、今後は院内での他部門との連携強化を行い、周産期救急の受入体制を整備している。
このシステムが機能するためにはコーディネーターが必要である。現在、周産期情報ネットワークによって空床情報が公開されているが、情報が更新されていなかったり、受け入れ制限などの情報が表示されていなかったりなど問題点が多い。円滑な運用のためにはコーディネーターが必要であり、直接、搬送依頼先と交渉することにより、種々の問題が解決することが多い。京都第一赤十字病院総合周産期センターがその機能を果たしている。
原則は、従来通りの地域での連携(近隣医療機関同士での病診連携)を優先している。それがうまくいかない場合に、この搬送システムが用いられることになる。
現在、京都府全体で年間2万3千の出産数で、このシステムを使った母体搬送が280件(80人の妊婦に対して1件)、また同じく新生児の搬送が200件(こちらの件数は徐々に減少してきている)に上り、主にドクターカーが対応するケースが大半である。
医師体制については、独立した新生児科の医師と産婦人科の医師がそれぞれ約10人いて、それぞれが常時2人当直性を組んで対応している。平均して医師の当直回数は1カ月に6―7回である。
一方、京都府内での受入病院がなく、広域に滋賀県や大阪府の病院へ搬送することも年間20件程度あり、逆に近隣の他府県からの搬送を受け入れることも10件程度存在している。この問題のため、近畿ブロック周産期医療広域連携システムが整備され、安全・安心な周産期緊急医療体制が確立し、当院は京都府の広域拠点病院に指定されている。このような広域搬送はドクターヘリによる搬送例も多く、必ず各府県の広域拠点病院を通じて搬送先を決定する約束となっている。
課題と問題点
1番目は先述したマンパワーの問題。2番目は京都府では急遽、総合周産期母子医療センターを設置したこともあって、病床数が少ないという問題がある。現在、周産期集中治療病棟(MFICU)のベッドが9床、そのうち2週間の重症管理加算がつく病床が6床で、これ自体も十分ではない。さらに重症管理が終了した後の病床、後方病床数が絶対的に不足しており、09年5月に10床増床したところであるが、それでも十分ではない。産科病床が満床のために周産期の集中管理が必要なケースを断るようなことだけは避けたいと思っている。3番目は経済性の問題。MFICU及びNICUの経営は赤字構造で、持ち出しが多い医療である。通常の分娩で何とか収支を合わせている状況であり、改善が求められる。なお長期入院症例が長期間にわたってMFICU管理が必要なケースもあり、加算日数の延長が望まれている(現在は2週間まで)。
医師体制の制約から受入断らざるを得ない場合も
京都民医連中央病院 産婦人科科長
中村光佐子氏
センターの役割に感謝
総合周産期医療センターは円滑に機能している。基本的に断られることがない。第一日赤が満床でも責任もって紹介してくれる。またこれまでであれば無理をせざるを得なかった(言い換えると訴訟の危険性もありうる)症例も受けていただいて、大変助かっている。しかし、バックトランスファー例が少なく、かえって紹介先の病床・スタッフの余裕をなくしてしまっていないかが心配。
医師体制の確立が課題
中規模一般病院産科の課題としては、地域の開業産科医からの紹介があってもマンパワー(当直帯の半分を非常勤医師に頼らざるを得ない産科医師体制)の制約のために、断らざるを得ない場合がままあること。また当院は小児科が常駐しているから助かっているが、小児科体制のない病院ではヒヤッとすることも少なくないのではないか?
産科無過失賠償制度についての評価はまだ分からない。妊婦さんや家族からも意見は聞いていない。事務手続きの煩雑さがある。
一方で病棟師長からは、助産師不足による勤務繰りの困難さが指摘されている。
府内でも分娩医療機関が減少
京都産婦人科医会理事 貫戸幸彦氏
産科無過失賠償制度に加入している医療機関・助産所は府内で79機関(病院33、診療所33、助産所13、10年2月現在)、この制度に加入していなければ分娩を取り扱うことができないので、この数が京都府内の分娩取扱機関といえる。このうち、医療機関ではこの4年間で約14・3%減少した。背景には産科医不足と訴訟リスクがあると考えている。
市外の医師不足が深刻
府内の現状は、特に北部においては、舞鶴市民病院の産科が閉鎖、舞鶴赤十字病院及び舞鶴医療センターも産科を休止(医療センターはNICUのみ稼働)、舞鶴共済病院が3人の医師で年間約600の分娩を扱っている。公立南丹病院も常勤2人体制となり、これら以外で一人医師体制で頑張っている医療機関も存在する。このように医師不足は深刻で、一方でネットワークが機能していない。南部の状況は、公立山城病院を軸に奈良県の公的病院との連携で対応している。
市内では、全国に誇るべきネットワークができている。開業医にとってきわめて有効なシステムとなっている。第一日赤を中核にネットワークを構成している。このシステムが機能している背景には産婦人科医会が橋渡しをし、また両大学が連携する場ができていることがある。大学がアカデミックのみに終わらない臨床の場を重視していることが大きい。
補償の適応対象拡大を
また、産科無過失賠償制度が09年1月から開始された。脳性麻痺のみを対象に子どもが20歳になるまで総計3000万円が支払われるもの。日本医療機能評価機構が運営し、保険業務は民間保険会社5社が運用する。この点で透明性を高めていくことが求められる。また今後は脳性麻痺に限らず多様な障害に対しても適応を広げていくことが必要である。