自由詩コーナー／谷口　謙　選

願い

門林岩雄

巫女になりたい
乙女がつぶやく
木枯しの吹く夕べ

　円空・木喰展
子どもが持って遊んだために
つるつるになった像
まろやかな顔が
一層まろやかになった
木喰の作サワッテミタイナ
「触るな」と書いてはあるが

　薬師寺
東院堂から
蜘蛛が這い出る
聖観音の　足の下から
何を伝えに？

孤独

加藤善郎

空を掩っていた雲
その間から君は覗いていた
笑顔ではなかったね
風が吹いて雲が散って
いつの間にか消えていた君
雲とともに去ったのね
誰かと一緒だったの？
笑顔ではなかったよね
やはり独りで去ったんだ
ローンリイ
あの世とやらでも
君は渝(かわ)らず寂しいんだ

星座図鑑（81）レチクル座

ｍ．

世界終末時計
針はまもなく十二時を指す
もう時間はない
なんと人間は傲慢なことか
しかし
時間の流れに逆らって
時の針を逆に動かす力
それは
私たち

　「詩というものは必ず先行作品があるものだ、先行作品がなくてすべてがおれのオリジナリティーであると詩人がほこれるようなそんな詩が一体成立可能であろうか、と私は思っております。何故ならば、詩は言葉というもので書くしかありません。画家がキャンバスの上に絵筆を走らせる。あるいは音楽家がピアノの上に指を走らせる。そういう具合に詩を書くことは出来ません。詩は言葉で書く人です」（安藤元雄）。言葉は使い古された多くの人間のものです。ああ。