外科診療内容向上会レポート 乳がん切除後の再建について講演
外科診療内容向上会を11月14日、京都外科医会、京都府保険医協会、大日本住友製薬株式会社の共催で開催。京都大学医学部形成外科学教室助教の冨士森英之氏が、「乳がん切除後の再建について」で講演した。
講演する冨士森英之氏
講演は、乳がん切除後の再建について、新進気鋭の冨士森英之先生が私たちに大変分かりやすく話された。マンモグラフィー検診による早期がんの発見は患者にも乳房温存手術をもたらした。乳房切除に至っても再建を望むなど、先ず、女性の乳房に対する意識が人類出現の時代から母性の尊厳に係わり、女性が乳房を失うことの心理的ダメージは男性には想像ができないものだと話された。
乳房再建は1960年代頃から豊胸術のインプラント(人工乳腺)利用から始まった。乳房再建を乳房切除術と同時に再建する「一期的再建」は本人には心理的ダメージが軽くなるが、再建術については十分検討する時間が取れない欠点がある。一方「二期的」では乳がん切除術後の病状が安定し再建術を受けるので治療に専念できる長所があるとのことだが、いずれにしても術前にしっかりと説明することが大切である。術式としてのインプラントは低侵襲であるが、保険診療ができる施設が限られ、また材料が生理食塩水パック、シリコンジェル等が主に使われ、それぞれ性状もタイプも多彩で長所、短所があるとのこと。
皮弁による再建は写真と模式図を用いて大変分かり易く講演された。「広背筋皮弁法」は腋窩動脈、肩甲下動脈、胸背動脈などの血管を用い創痕が背部にあり、本人の満足度も高いが、大きい乳房の女性には再建できない。また乳がんの治療が腋窩にかかる場合、放射線治療の場合等にもこの皮弁の使用ができないこともある。「腹直筋皮弁法」では大きな組織を挙上できるが、腹部に創痕が残り、妊娠の可能性のある女性では腹壁ヘルニヤをきたすこともあり原則的には使用できない。有茎皮弁は上腹壁動脈を、遊離皮弁は深下腹壁動脈を生かしてデザインされ、綺麗に再建され、特に冨士森先生が積極的に行われている微小血管吻合とともに、筋体の中の穿通枝を温存し血管茎のみを抜き取り乳房再建をより美しく、自然なラインを造られる理想的術式とされ、先生の女性の乳房への思いやりが感じられた。また乳輪や乳頭の再建もきめ細かい工夫がなされ、保険診療の中で乳房再建に取り組んでおられることには頭が下がった。
今後は良質なインプラントの保険診療が早く行われることが望まれるとともに、昔、血管外科を学んでいた私にとってはfree TRAM flap(横軸型腹直筋皮弁)を用いる美容上も良質でデザイン性にも優れたDIEP flap (深下腹壁動脈穿通枝皮弁)は外科医としての技術修練―マイクロサージャリーの技術―に役立つ教育システムの向上にもなり夢のある分野となることが期待されると思った。今後、乳がんの手術を勧めるときにも再建術にも触れることが必要となり、乳腺外科と形成外科の一層の連携も望まれると述べられたのには思わずうなずいた。
(宇治久世・木村敏之)