道産子も驚くローカル線・路線バス乗り継ぎ道央縦断の旅 日本ローカル鉄道の旅 その8

道産子も驚くローカル線・路線バス乗り継ぎ道央縦断の旅
日本ローカル鉄道の旅 その8

北小路博央(北)

 北海道は学生時代の貧乏旅行をきっかけに十数回は訪れているのに、鉄道に関していえば、いまなお未乗線がいくつか残っていた。それらもアレヨアレヨという間に国鉄合理化による廃線がおし進められ、その中のいくつかは永久に乗れない線になってしまった。

 現在残っている未乗線だけは何としても乗りつぶしたい、という思いから09年9月、鉄子さん(家内)と、もう一人筋金入りの鉄ちゃんである甥のS君(66歳)との三人で計画を進めることになった。まず「JR東日本・北海道パス」という期間限定のトクトクキップを使うかどうか、1万円で3日間乗り放題は魅力だが「青春18キップ」と同様、新幹線・特急・寝台には一切使用できない。北海道内に限ればジパング割引の利用と比べて値段的にいささか微妙であり、「西日本パス」と比べてトクトク感が少ない。しかもJR東日本・北海道圏内の駅でないと買えないという不便さもあるのだが、今回は敢えてこれを使うことにした。

(第1日)

 09年9月某日、京都駅から寝台特急「日本海」青森行に乗り込む。かつての人気列車もジェット機と新幹線におされて乗車率50%以下、4人コンパートメントの3人使用でスローな旅立ちには最高だが、これも何時廃止になるのかと心配になる。深夜特急のわりによく停まるので、その度に目が覚める。

(第2日)

 快適に走る寝台列車の着いた朝の青森駅は雨でうすら寒くサマーセーターを着こむ。ここで「北海道パス」と「特急白鳥」の自由席券を買う(特例で青森〜函館間は特急券だけ買ってパスで乗れる)。過去最大の難工事であった青函トンネルを40分で通過して木古内で江差線(五稜郭―江差79・9km)に乗り換える。乗車率約50%、「今日は青春18の最終日だから多いのでしょう」とS君の鉄ちゃん的解説、松前半島を横切ること約1時間で江差に着く。鰊漁でにぎわった江差も今は何の変哲もない港町で、駅前では「江差追分」も聞えてこない。駅前スーパーで昼食を仕入れて木古内に引き返し、函館までは、さっきの自由特急券をちゃっかり利用して「スーパー白鳥」に乗る。これで未乗線その1、江差線を完乗。函館からはジパング割引を使って「スーパー北斗」で苫小牧へ、この特急は何と東室蘭まで170km2時間をノンストップで突っ走る。いくら函館―札幌間の看板特急でも地元の人にとってはそれはないだろうと思う。

木古内駅に入線する「スーパー白鳥」
木古内駅に入線する「スーパー白鳥」

 苫小牧では駅近のGホテルに投宿、地元O製紙直営の立派なホテルだが、照明看板がないので探し当てるのにひと苦労、「苫小牧では会社といえばO製紙のことだといわれるそうで殿様稼業の現われですな」とは大企業営業マンであったS君の感想。夕食は繁華街に出てキップのよい女将の仕切りで北海道の味覚を堪能する。

(第3日)

 いよいよ待望の日高本線(苫小牧―様似146・5km)未乗線その2に乗る。そもそも○○本線とは支線を持っている路線のことで、日高本線にも昭和53年までは富内線(鵡川―日高町82・5km)という立派な支線があった。今や「支線を持たない本線」は全国に数え切れない程ある。

「優駿浪漫号」で日高本線へ
「優駿浪漫号」で日高本線へ

 日高本線は優駿牧場と日高昆布で有名である。優駿を間近に見たくて静内(しずない)で途中下車、ライディングヒルズと称する観光牧場で優駿に人参をやったり、優駿とは程遠い道産馬に乗ったり、晴天の日高を楽しむ。静内―様似間で、車窓から大波に胸までつかって昆布を引き上げる昆布漁の荒業を見て感動。良質の昆布は大波の時しか打ち上げられない由、自然との共生は戦いでもある。

優駿?に乗ってトラック一周
優駿?に乗ってトラック一周

 様似は日高本線の終着駅で襟裳岬への入口だが無人駅で乗降客は数人、そのわりに立派な売店がある。襟裳経由広尾行JRバス乗継キップを買ったら、売店のお姉さんが「ようこそ様似へ、今日は襟裳にお泊りですか」と愛想をふりまく。「バスを乗り継いで帯広まで」といったら

 「えー」と絶句、(何をしにこんな所まで…)といいたげな様子。

淋しきは終着駅「様似」
淋しきは終着駅「様似」

 様似―襟裳―広尾のJRバスは海岸に沿った黄金道路(黄金を敷きつめた程高くついた)を豪快にとばす。バスの窓までとどく波しぶきもまた豪快そのもの。

 広尾のバスターミナル(以下BTと略す)は旧広尾駅を利用した建物で、かつて帯広―広尾間84・0kmを結ぶ国鉄広尾線の終着駅であった。往時を偲ぶ展示品があり昭和53年の廃線を悲しむ切々たる地元民の思いをつづった文章がパネルになっている。愛国駅、幸福駅などなつかしい名前もある。

 広尾から帯広までは十勝バス、これは何と京都市バスと同じ仕様のシート、この2時間半はさすがにこたえた。この日は駅前のビジネス?ホテルに泊まり、ジンギスカン鍋の夕食。

旧広尾駅跡の展示パネル
旧広尾駅跡の展示パネル

(第4日)

 帯広発富良野行快速「狩勝」に乗る。未乗線その3の富良野線(富良野―旭川54・8km)は中高年のおばさんで満席、車窓のラベンダーに代表されるお花畑がお目当てらしい。7〜8月が盛りの由、9月半ばでも美しい色は残っているが、何となく箱庭的で北海道的豪快さはない。

 旭川では5分の乗り換えで長い通路を走って特急「スーパーかむい」に乗り込む。未乗線その4の留萌本線(深川―増毛66・8km、これも支線のない本線)に乗り継ぐためにはわずか10分しか乗らない旭川―深川間を1220円余分に支払って特急に乗らねばならないのが北海道パスの辛いところ、深川では10分の待合わせで駅弁を買う間もなく、昼食はS君持参の非常食ビスケットですませる。

 さて留萌本線の終着駅増毛に着いてからどうするのか、増毛―札幌を結ぶ十勝バスに乗れたら、プラチナ道路(黄金道路より高くついた)をつっ走って札幌に出られて都合がよいのだが、JRの増毛到着とバスのBT発車との間が10分しかない。BTは駅前だろうと思っていたら、さにあらず約2キロ離れているという。私は唖然としたが、S君は少しもあわてず増毛のタクシー会社に電話して駅前にタクシーを待たせていた。増毛の町を5分で通りぬけてBTへ、十勝バスは例によって京都市バス仕様、このシートでまた2時間半か、とげっそりする。このバスは路線バスと称しながら一日一便、それも土・日・祝のみ運行という信じられないタイムスケジュールで走っているもので、それにうまく時間を合せて乗れたのはS君のお手柄であった。増毛から札幌まで乗るという地元のおばさんが「このバスができてから札幌往復がしやすくなった。ところで昨夜はどのホテルでお泊り?」「帯広です。今夜は苫小牧からのフェリーで関西へ帰ります」おばさんは唖然として「マア、お忙しい旅に増毛までよくぞ足を伸ばしていただいたこと、次回は増毛で是非一泊して下さい」と増毛名物の饅頭をいただいた。

 23時40分苫小牧東港発の新日本海フェリーに間に合って、4人用船室で欲も得もなくベッドにもぐりこむ。5日目は1日中船内でのらりくらりと体を休める一日となった。

◇ ◇

 体調不良をおしてのクレイジーな旅もS君のおかげで未乗線4つをこなして何とかこともなく終わった。本音は「年寄の冷水」も程々にせねばと反省している。

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