主張/租税特措法に新政権は慎重な対応を 医療機関の減少は国民の損失
民主党が政権を取った。そのマニフェストには次のようにある。
「これまでの税制改正議論は、与党税制調査会、政府税制調査会、経済財政諮問会議によってバラバラに行われてきました。特に、与党税制調査会は不透明な形で政策決定を行い、既得権益の温床となってきました」(税制改正過程の抜本改革)。
そして、その具体化策として租税特別措置法の見直しがある。
「特定の企業や団体が本来払うはずの税金を減免される点で、租税特別措置(租特)は実質的な補助金であると言えます。しかし、民主党の調査の結果、税務当局も要求官庁も各租特の必要性や効果を十分に検証しておらず、国民への説明責任を全く果たしていない実態が浮かび上がってきました」(租税特別措置透明化法の制定)。
医業に関係するのは所得税の計算にあたり、所得税法の規定にかかわらず社会保険診療報酬の一定割合を必要経費として収入金額から除外するというものである(なお、この規定は医科・歯科に認められているが調剤には認められていない)。
具体的にはこの規定を利用すると実際にかかった経費が少なくても、保険診療報酬が5000万円以下の医療機関ではその57%、2500万円以下であれば72%が経費とみなされる。
この租税特別措置法は、診療報酬引き上げ運動の高まりの中で、低診療報酬を補完するものとして1954年12月に、「租税特別措置法一部改正案」が議員立法として可決されたものである。
その際、「本法案は、社会保険診療報酬の適正化までの前提措置であるから、政府は速やかにこれの実現をはかるよう善処されたい」と付帯決議がついたことを無視されてはならない。
来年度から急に措置法を廃止するということになった場合、これまでこの制度を利用して簡便な計算で納税していた医療機関は、急に以前より煩雑な会計処理を強いられることになる。もちろん、他業種は以前からそうしてきたわけなので反対はできないのであるが、そうでなくても収入が減少し、高齢にもなった医師の中には、これを機会に引退しようと思われる方もあろうと思われる。しかも措置法の見直しが先行し、診療報酬の適正化が見過ごされるなら、さらに開業を継続し難くなるであろうことは容易に想像できる。
京都府保険医協会は10月22日に、厚生労働省がネット上で「平成22年度厚生労働省税制改正に関する要望」に対して意見募集をしていたため、診療報酬が適正化されるまで租税特別措置法26条、67条の当面の存続を求める意見を提出した。
制度をわかりやすくし、国民が理解し易く納得できるものにすることには毫も異論はないが、一方のみが先行してバランスを崩したり、移行期の変化に耐えられず廃業する医療機関が生じないように民主党には求めたい。医療機関の減少は国民の健康には損失であるし、国家財政にとっては税収の減少である。