広場/小児在宅医療に明日はあるか
会員の皆様は、小児にも在宅医療があることをご存じでしょうか。小児と在宅医療は最も対極にあるものと思われている方も多いことでしょう。新生児医療をはじめ小児医療のめざましい進歩により、500gに満たない未熟児や重篤な疾患を持った児が救命できるようになった反面、重度の障害を抱えながら、療養生活を強いられる小児が近年急速に増加しています。これらの子ども達が家族と共に自宅で暮らすためには、在宅医療は不可欠です。しかし、それは現行制度では容易なことではありません。
高齢者の在宅医療では、介護保険制度に基づいて様々なサービスが利用できます。その中心的役割を担っているのがケアマネジャーですが、小児の在宅医療には介護保険制度は適用されず、したがってケアマネジャーが存在しません。専門知識を持たない保護者が、苦労して訪問看護ステーションや訪問医を探し、また行政との交渉を行っているのです。診療報酬の点からも、成人の在宅医療では当然請求できる点数が、小児では請求できないといった不合理 注)が存在します。介護保険制度創設時の行政にとって、人工呼吸器をつけた小児が在宅療養をすることなど全く想定外だったのでしょう。
一方で、本来なら小児在宅医療を支援すべき開業小児科医の間でも、在宅医療に対しては温度差が大きく、十分な理解を受けているとは言いがたいのが現状です。どんな障害を持っている児であっても、小児は成長、発達してゆくものです。成長、発達という視点で患者を評価し、さらには学校教育にまで配慮することは高齢者の在宅医療ではないことです。これに対応できるのは小児科医だけではないでしょうか。
筆者は現在二人の小児在宅患者を担当しています。それぞれの母親は、自宅に戻ってからは、人工呼吸器のアラームを鳴らすことが少なくなった、できることが急に増えてきたといった、児の様子の変化(発達)を実感しています。入院中は手厚い看護を受けていたわけですが、家族に囲まれた自宅での安らぎと刺激は何ものにも勝るということでしょう。在宅医療を必要とする小児は、今後さらに増加していくことが予想されます。医療や看護をはじめ、福祉・行政、教育など、障害を持つ子どもに関わる領域の人々が、少しずつでも小児の在宅医療に目を向けていけば、子ども達とその家族の明日はきっと明るいものになっていくことでしょう。
(西陣・長谷川 功)
注)小児科外来診療料届出医療機関の場合、3歳未満の乳幼児に対する訪問診療料は別に算定できない。