日本ローカル鉄道の旅(その7)北小路博央(北)

日本ローカル鉄道の旅(その7)北小路博央(北)

中国地方秘境ローカル線を「青春18キップ」で走破

 中国地方の山地を縦横に走るJRローカル線の中には、1日3〜4便しか走らない秘境ともいうべき超過疎の線がいくつかあり、JRにとってはお荷物だろうが、「乗り鉄」にとっては今のうち(廃線になる前)に乗っておきたい魅力的な路線である。

 ところで、JRには期間限定(春・夏・冬)の格安キップがあって、1日中乗り放題の2300円が5枚綴りで11500円、5人グループの日帰り旅行、1人なら5日間の旅行がOKというのがある。2300円の正規のキップならほぼ京都―名古屋間片道、何も考えずにクレージーに乗りまくれば、1日で京都―黒磯(東北)、京都―下関は可能である。ただし新幹線・特急は全くの別料金となる。名前は「青春18」でも年齢制限がないのが何よりで、鉄道好き高齢者の利用も多い。

 2009年3月、この「青春18」を利用して「乗り鉄」にとって難関とされる木次(ルビ きすき)線、三江線に挑戦した。同行2人まさに難行苦行の旅となった。

(1)京都―広島(380?)

 この区間はどうしても新幹線を使わないと、1泊2日の旅程が立たない。広島行ひかりは新大阪で若者の団体が下車して、ゆっくりできたのがありがたかった。

(2)広島―三次(ルビ みよし)―備後落合(114?)芸備線

 昼食用に広島で天むす・ちくわなどを買い込んで、いよいよローカル線の旅が始まる。この辺りはまだまだ都市近郊線の気配が強い。約2時間で三次、ここで備後落合行に乗り換えると、中国山地をゴトゴト走るローカル線の風情となり、ロングシートで天むすを食べても気にならない。約1時間で備後落合、周りに全く何もない山間の小駅で、ここで木次線に乗り換える。

(3)備後落合―出雲横田―宍道(82?)木次(きすき)線

 本日のハイライト木次線は、通しで走る列車は1日3本、1輌のディーゼルカーが残雪の山間をヨタヨタ走る。落合からの乗客は私達を含めて5人(鉄ちゃん3人・地元の人2人)。出雲坂根は、絵に画いたようなスイッチバックの駅で、ホームには有名な「延命水」があり、乗客がゆっくり飲めるように10分程停車する。約1時間走って出雲横田で乗り換え、といっても同じ車輌がそのまま1時間後に宍道行となる。地元高校の下校生を乗せるためだ。乗り込んできた数十人の男女高校生のお行儀が良いのにびっくり、雲州そろばんが達者なのだろうか?

(4)宍道―出雲市―江津(ルビ ごうづ)(85?)山陰本線

 本線だけあって、出雲市までは通勤列車の状況で乗車率80%、出雲市駅で夕飯の海鮮ちらしなどを買い込む。出雲市発浜田行は20%、山陰海岸も見えない闇の中を20時50分江津着、駅からタクシーで5分のビジネスホテルに投宿。フロントに、翌朝は6時の江津発に乗ると言うと、玄関は閉まっているので非常階段から出てくれとのこと、いささかわびしくなる。

(5)江津―三次(108?三江線

 頼んでおいたタクシーがなかなか来ず、イライラするが、何とか6時2分発の三江線始発に間に合う。ホームは真っ暗で、乗客は我々2人だけ。三江線も通しで走る列車は1日3本、山陰本線との連絡はきわめて悪く、今回のように夜遅く着いての1泊を余儀なくされるなど、「乗れるものなら乗ってみろ」と乗客にうそぶいているような気がする。

 しかし、少しずつ明るくなる車窓に大河江川(ルビ ごうのかわ)が霧の中から姿を現す情景は幻想的であって、苦労して乗った甲斐は充分にあった。

(6)三次―塩町―神辺(76?)福塩線

 三次駅前のコーヒーショップで遅い朝食、ホンジュラスコーヒーが思いがけずとてもおいしい。福山まで行かずに神辺で井原鉄道に乗り換える。

(7)神辺―総社(41・7?)井原鉄道

 山陽本線とほぼ平行に走る第三セクター、全線のほとんどが高架でスピードも出る。このせちがらい世の中で不思議な路線である。

(8)総社―岡山(20・4?)吉備線

 これも存在感の少ない愛想のない路線で、やはり山陽本線と平行に走る。

(9)東岡山―播州赤穂―相生(64・7?)赤穂線

 天候が良くなり、「日本のエーゲ海」と称される日生(ルビ ひなせ)の美しい入江の夕景が印象に残った。

◇  ◇

 播州赤穂で山陽、東海道本線を突っ走る新快速野洲行に乗りこんだところでローカル線の旅は終わった。傘寿老人が「青春18」で未乗線6線を走破した達成感はあったが、大いなる疲れも残った小旅行であった。

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