会員投稿／キューバ医療視察

国の姿勢が国民の健康状態を決める／門　祐輔（左京）

（写真左）陽気な市民。ギターをひく人の隣の両下肢切断者は、私がカメラを向けると同時にカメラを構えた。

（右）ポリクリニコといわれる重装備診療所とそのスタッフ。人口１万人あまりの地域を３７人の医師と４００人弱のスタッフが２４時間体制で支えている。このバックには病院がある。

　キューバは、アメリカの南に浮かぶ人口１２００万人弱の小さな国だ。私は今年の１月下旬に医療視察の旅で訪れた。

　キューバと言えば、「カストロによる独裁国家」「国民がカリブ海をボートでアメリカへ大量に逃げ出す貧しい国」、という暗いイメージを持つ人もいる。一方で、「高い医療レベル」「教育レベルが極めて高く大学まで無料」「有機農業で食糧問題を解決しつつある国」、とも言われる。いったい何が本当だろうか？そんな思いもあって参加した視察であった。

　客観的に見れば、国民１人当たりの所得は日本の数１０分の１。古い建物が建ちならび、最初は参加者がみな息をのんだ。しかし数日過ごす中で目が慣れていき、車と自転車と馬車の行き交う道路、余計な電気を使わないため日が暮れるとすぐ暗くなる街など、貧しい中で合理的な生活をしていることに気づいた。

　また人々は総じて陽気で明るく、貧しさでせっぱ詰まった感じはしない。それには陽気な国民性が根底にあるが、生活必需品が極めて安く手に入り（配給制）、生きていくことはできるという安心感があるからだと思う。

　日本との対比でキューバの医療を私なりにまとめると、?医師数が人口当たり日本の３倍と多く、計画的に養成・配置されているために都市部、へき地で提供される医療に差はない、?衛生・生活習慣の改善、ワクチン接種、家庭医の重視など予防を重視し、重症化しないように努める、?臓器移植を含めレベルの高い高度医療が行われている、?医療は予防から高度医療まですべて無料。これらにより、平均寿命は７６歳、乳児死亡率４・７、死因の第一位悪性疾患、二位心臓病、三位脳卒中と先進国と変わらない。そのうえ?発展途上国の災害には思想の如何に関わらず無償で大規模な救援活動をし、世界から１学年１５００人の医学生を無償で受け入れ医師養成を行う国際貢献を行っている。この根底にあるのが、「人を大切にする」「持っているものを共有する」という思想だ。

　物不足、２４時間あいているコンビニはない、など日本的な意味での便利さはないが、この国に暗いイメージを持つか、明るさを感じるかは、受け止める側の「豊かさ」「貧しさ」に対する考え方によるようだ。

　ひるがえって日本の現状をみると、はるかに「豊かな」国のはずなのに、格差拡大、医療・介護崩壊、将来不安など先が見えない状態が続いている。キューバは小国ながら、先進国に常に問題提起をし続けている極めて存在感のある国だ。

（写真左）アルメヘイラス病院。臓器移植も行う１０００床の病院、

（右）病院の１６階からみたハバナ市内。古い建物が並んでいる。