自由詩コーナー 谷口 謙 選

自由詩コーナー 谷口 謙 選

木守り 加藤善郎

木守りリンゴが落ちる

柿に木守りがあるように

今年最後の実が落ちる

斑ら雪の畠にある小さな穴

待ちつづけた野鼠が穴を出る

見る間に齧りつくされて

残骸となったリンゴ消えた野鼠

やがて頬を刺す雪と風の日々

そして久しぶりの青い空

浮び出た雪の岩木山と三層の城

群がり連なるリンゴの古木を

ずーっと昔から見守って

くれているんだね

あの健気な木守りにもね

星座図鑑(75)ぼうえんきょう座 m.

暗い夜道

とぼとぼ歩く

満天の星

やっと

明かりが一つ

見えた

いつもの居酒屋

人は誰もいない

一杯ぐっと飲む

おやじと話

 ○○首相が亡くなったのだってねえ

  え、それ十年以上の前の話でしょ

 何いってんの

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仰天

あわてて

店を出た

空は満天の星

春の山 門林岩雄

山の中の細い道

人も通らず

しんとしている

どこまでも どこまでも

のぼりがつづく

ふと下をみると

道にちらばる

白い点々

アセビの花だ

春風

おち葉はまいあがる

風にのって……

人を越え

屋根をこえ

かなたの暗い

闇のなか

早春

山のうえの木は

みんなさびしげに

月をまつ

 「茫漠とした生の海には、大小無数の島々が点在していて、その数だけ、言葉はあるにちがいない。けれど、各々の思考と感受性が妥当とみなすもの。おそらく[存在の意味]がおのずと促すベクトルはあるのではないか」(江口 節)

 瀬戸内海という多島海に住む女流詩人は続けて、生きてきた風土と時代が重なる者が共に発信する時、どのような周波数になるのだろう、と続けておられます。言葉を島と見たてて。

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