裁判事例に学ぶ14/外傷時は沈降破傷風トキソイドで能動免疫の賦活を

裁判事例に学ぶ14/外傷時は沈降破傷風トキソイドで能動免疫の賦活を

 平成10年8月23日、47歳男(昭和26年生)Aは、玉葱を収穫するために農業用機械を操作中、ローラーに左手を巻き込まれ、拇指の指節関節部骨欠損、示指中節骨骨折・基節骨粉砕骨折、中指基節骨骨折を受傷し、拇指・示指には圧挫滅様の皮膚欠損を伴っていた。某日赤病院整形外科を救急受診し、洗浄・デブリードマンの上、午後4時15分から8時まで骨接合術・皮膚移植術が実施され、抗生剤(パンスポリンR1g×2回×6日間)が投与された。9月3日開口障害が生じ、7日午前2時30分頃痙攣が始まり破傷風と診断され、集中治療室で入院加療され、10月6日個室に移り、翌11年1月17日退院した。Aは、DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)3種混合ワクチン接種(昭和39年導入・43年から定期集団接種・平成6年に個別接種で基礎免疫付与)等なく破傷風の能動免疫がなかった。

 Aは、ワクチン未接種など免疫能のない者の農作業中で汚染された深層に及ぶ創傷に対しては、発症の危険を予見して、?能動免疫に沈降破傷風トキソイド0・5mlを皮下または筋肉内注射、?受動免疫に、破傷風菌が受傷後約6時間で産生する毒素に対する抗毒素の抗破傷風ヒト免疫グロブリンTIGを静注、?嫌気性菌のため開放創で処置、をしなかった医師の過失を根拠に提訴した(請求715万円)。

 裁判所は、基礎免疫のない者では、血中抗毒素濃度は初回接種から約1カ月後の2回目接種の10〜14日後に有効濃度(0・01IU/ml)以上に達するので初回非接種で違反なく、TIG250IU筋注では当日中に、静注では1時間以内に有効濃度に達し、6時間以内の有効な時期の創傷で、TIGを静注しなかった医師の過失を認め病院に270万円の支払いを命じた(旭川地判平13・10・16、LEX/DB TKC 28071487)。

 1948年には、真症患者1979人、死亡(疑似・保菌含む)2138人と多く、1985年以降では患者50人前後、死亡20人前後に減少したが、死亡数は40歳代後半以降に増加している。3回以上の接種歴があって5年以内か、5〜10年で清潔で軽傷であれば接種不用であるが、それ以外ではトキソイドの接種が必要とされる。本人の知らぬ内に接種すれば追加免疫効果が生じたりもし(海老沢功氏意見)、昭和42年以前誕生者には説明の上、初回と3〜8週後と2回は接種して、できれば更に6〜18カ月後に3回目も接種する基礎免疫化も一策である。

 接種歴が1〜2回か不明の場合は、更に、清潔で軽傷以外、特に、水田・沼地・下水道での深く狭く汚い創傷などや畑など土壌による汚染創、動物の咬創、釘や木片などでの刺創、挫滅創で特に筋の挫滅を伴うもの、第3度熱傷、開放骨折、多発外傷などでは、TIGの投与が必要とされる。保険請求では査定されぬよう創の程度の記載を要する。

(同ニュース2009・7?106より、文責・宇田憲司)

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