シリーズ/環境問題を考える(90)原発がクリーン?
『メディペーパー京都』2月号において、電気事業連合会が雑誌に掲載した「原子力発電はクリーンな電気のつくり方」という広告のコピーについて、日本広告審査機構(JARO)が「原子力発電にクリーンという表現を使うことはなじまない」と裁定したという記事について、会員から詳細を知りたいという要望があったため、小出裕章氏に特別にご寄稿いただいた。
小出裕章(京都大学原子炉実験所)
現在、地球温暖化が人類の最重要課題とされ、その原因が二酸化炭素にあると宣伝されている。そして、日本政府と電力会社は「原子力は二酸化炭素を出さないからクリーンだ」と主張してきた。ただし、その宣伝は最近になって「原子力は発電時に二酸化炭素を出さない…」に変わった。
原子力発電所を動かそうとすれば、ウラン鉱山でウランを掘り、製錬し、核分裂性ウランを濃縮し、燃料の加工をしなければならない。それらの工程の大半は化石燃料で支えられており、原発を動かすためにははじめから二酸化炭素を放出している。その上、原子力発電所自体も鋼鉄とコンクリートの塊で、それを建てる時にも大量の二酸化炭素を放出したし、運転時にも化石燃料を使う。当然、「発電時に二酸化炭素を出さない」と言うのも虚偽である。科学的に言うなら、「核分裂反応は二酸化炭素を出さない」と言うべきだろう。
では、核分裂反応は何を出すのか? 核分裂生成物、いわゆる死の灰である。1基の原子力発電所は1年運転する毎に広島原爆が生んだ核分裂生成物1000発分を生む。そして人類はそれを無毒化する力を持たない。1966年に日本で原子力発電が始まって以来、今日までに生んだ核分裂生成物の量は広島原爆120万発分に達する。日本政府は、それを地下に埋めてしまえば、後は何もしなくていいと主張しているが、放射能の毒性が減るまでには100万年かかる。そんな長期間に亘って安全を保証する力は科学にはない。当然、放射能を埋め捨てにしてはならない。もし100万年に亘って放射能の管理を続けようとするなら、一体どれだけのエネルギーが必要で、どれだけの二酸化炭素を放出することになるのか想像すらできない。仮に二酸化炭素が温暖化の主要な原因だとしても、原子力こそ最悪の選択になる。
人類が地球の生命環境を破壊してきたことは確実である。その真因は「先進国」と呼ばれる一部の人類が、産業革命以降エネルギーの膨大な浪費を始めたことにある。大気汚染、海洋汚染、森林破壊、酸性雨、砂漠化、産業廃棄物、生活廃棄物、環境ホルモン、放射能汚染、さらには貧困、戦争など、そのどれをとっても巨大な脅威である。温暖化は無数にある脅威の一つに過ぎないし、その原因の一つに二酸化炭素があるというに過ぎない。原子力が放出する二酸化炭素は決して少なくないし、原子力がクリーンだなど、真に呆れた話という他ない。