2008年度京都府内NO2測定結果
京都府保険医協会 京都府歯科保険医協会 環境対策委員会
府内1003地点でNO2測定 大気汚染は京都府全体に広がる
実施日:2008年12月4日(木)午後6時〜5日(金)午後6時の24時間
発送数:2052(医科:1563、歯科:390、事務局:26、定点:73)
回収数:1003(回収率 全体49%、医科:47%、歯科:47%)
はじめに
京都府保険医協会医及び歯科協会の会員による京都府内の二酸化窒素(NO2)測定は、今回で8回(7年間)を数えました。ご協力に心より感謝申し上げます。
昨年、アメリカのサブプライムローンの破綻、リーマンブラザースの倒産に始まった金融危機は、たちまち全世界に広まりました。今や、世界はこの金融危機と、かねてより指摘されていた地球温暖化の危機との2つに立ち向かわなければならなくなりました。地球温暖化には、人間の活動に伴う二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出が大きく関係しています。これまで全世界で増え続けてきた産業や運輸によるCO2排出も、最近、地球温暖化対策に熱心な国々の努力や、昨今の世界金融危機による産業活動の後退で、減ずる兆しが見えてきました。金融危機を乗り越え、持続可能な地球環境を維持するには、世界各国での公共投資と環境対策を結びつけた総合政策が重要です。残念ながら、日本はこの2つの危機への対策におくれをとっています。大気中のNO2濃度はCO2濃度と相関関係にあると言われています。私たちのNO2測定活動を通して、地球温暖化についても考えたいと思います。
測定方法
08年12月4日〜5日全国統一日に測定
今年度は、会員の過去5回(4年間)の調査に1回以上測定にご協力いただいた方を対象に、プラスチックカプセル(天谷式NO2簡易測定カプセル)を郵送させていただきました。このカプセルを原則、会員医療機関玄関先あるいは近辺道路の、地上から1・5mの高さに粘着テープで取り付け、24時間大気にさらした後回収、協会へ返送していただきました。
カプセル配布は2052個、回収1003個、回収率は49%(07年45%、06年35%)でした。本年も配布対象者を絞ったため、回収率が上がりました。ただ、測定日が雨だったせいか、他日あるいは24時間超過した等の問題のあるサンプルが149個もあり、統計からは除外しました。また、その他として、事務局が医師会館周囲、油小路通と十条通の定点観測に68個を用いました。
測定は大気汚染全国一斉測定日(年2回、他の1回は6月の第一木・金曜日)に合わせた08年12月4日(木)午後6時から5日(金)午後6時までの24時間で、当日の天候は、4日夜は曇り、5日午前7時頃より午後2時30分頃まで雨降り、のち曇りで冷え込み、風は微風程度でした。測定日の気候としてはデータが低く出ますので、あまりよくありませんでした。
測定基準と結果
“あまり汚れていない”地域が皆無に
測定基準は国の定めた環境基準「人の健康の保護および生活環境を保全するための維持すべき濃度」(1978年)41〜60ppbに準じて、20ppb以下を“あまり汚れていない”、21〜40ppbを“少し汚れている”、41〜60ppbを“汚れている”、61ppb以上を“大変汚れている”としました。なお、京都市は当面の環境保全基準を40ppb(1986年以前は20ppb)以下としています。
2008年度NO2測定データ集計一覧は表1に示します。
地域の平均値からは、京都市内ではすべての区が“少し汚れている”に入りますが、30ppb台は上京区、中京区、下京区、南区、西京区、東山区、山科区、伏見区の8区、20ppb台が北区、左京区、右京区の3区です。昨年は全ての区が30ppb台でした。京都市以外の府内もすべて“少し汚れている”に入り、京都府南部では長岡京市、向日市、宇治市、城陽市、久世郡、八幡市、京田辺市、相楽郡が30ppb台、乙訓郡、綴喜郡、木津川市が20ppb台です。京都府中部、北部の亀岡市、南丹市、船井郡、綾部市、福知山市、舞鶴市、宮津市、与謝郡、京丹後市はいずれも20ppb台です。過去には20ppb以下の“あまり汚れていない”地域は1つ以上ありましたが、本年は皆無でした。今回の結果からは、大気汚染は京都府全体に広がり、平均化してきていると推測されます。
ワースト・ベスト10は表2、3に示しましたが、61ppb以上の“大変汚れている”地点は、今回2地点しかありませんでした。これまでは、01年14地点、02年13地点、03年7地点、04年59地点、05年47地点、06年12地点、07年4地点でした。今回は、雨の影響があったものと思われます。
NO2濃度平均値年次推移(表4)で過去8回・7年間の経過を見ますと、京都市内では、下京区、南区、東山区、山科区、伏見区が比較的一定・高め状態で移行してきましたが、上京区、中京区、西京区が漸増傾向にあります。京都市以外の府内でも、南部の宇治市、城陽市、久世郡、八幡市、京田辺市は、比較的一定・高め状態で移行し、今まで“あまり汚れていない”であった中部や北部の亀岡市、南丹市、船井郡、綾部市、福知山市、舞鶴市、宮津市、与謝郡、京丹後市、などが漸増傾向にあります。京滋バイパスや京都縦貫自動車道をはじめとする道路の建設や拡張・整備が、交通量の増加を招来し、大気汚染を進めたのではないかと思われます。
阪神高速道路8号京都線の上鳥羽出入り口から巨椋池インターチェンジ間が昨年1月19日に開通し、また同年6月1日、山科出入口から鴨川東出入口間も開通しました。出入り口に当たる十条油小路〜鴨川付近の今後のNO2濃度の推移を見るため、昨年度から測定を開始しました。また、現京都府医師会館近辺のNO2濃度も測定しました(図1、2、3)。油小路通は平均47・9ppbで“汚れている”に、十条通も平均41・6ppbで“汚れている”に入ります。どちらの通りも拡幅されて交通量が増大しています。京都府医師会館周囲の測定では、医師会館の屋上は41ppb、35ppbでした。
図2 油小路通付近
(※交差点の角と、それぞれから50m離れた道路沿いに設置)
考 察
広い範囲にわたって大気汚染が進展
これまでのNO2測定結果や年次推移からは、京都市内では阪神高速道路8号線の部分開通(鴨川東出入口〜上鳥羽出入口による全線開通は11年3月末の予定)、五条通の拡幅、京都南を起点として宮津市を終点とする京都縦貫自動車道の延長等の幹線道路の建設や拡張・整備、中小道路、生活道路の拡張・舗装などにより、京都市から遠く離れた地域や生活圏の交通量が増大し、広い範囲にわたって大気汚染が進展していると考えられます。移動手段として自動車に頼らざるを得ない交通事情は、各地でクルマ公害、環境・景観破壊、中心街の没落、大気汚染による健康被害等を引き起こしてきました。今一度、自動車の功罪について考えたいと思います。
昨年のガソリンの高騰により、一時期クルマ離れが進み、道路の交通量は減少しましたが、再びガソリン価格の下落や高速道路料金の値下げ等で、以前ほどではないものの、交通量は復活しつつあります。
100年に一度といわれる世界恐慌に見舞われ、今や経済を輸出産業に頼る日本は、自動車、電子機器、電機製品、鉄鋼などあらゆる産業部門が影響を受けています。特に、不況による自動車販売の落ちこみは、自動車産業の経営を直撃し、雇用の調整弁としか見ていない非正規労働者の大量解雇で、多くの失業者、生活困難者を生み出しました。マスコミも大きく取り上げた“年越し派遣村”は記憶に新しいものとして残っています。世界同時不況は、エネルギー需要を減退させ、産業活動の停滞、自動車需要の落ちこみと同時に、自動車交通量の減少を招きました。また、自動車排気ガス対策、規制強化、燃費向上、ハイブリッド車、燃料電池・電気・水素自動車等の登場により、NO2排出(CO2排出も)は減少傾向にあります。更に、日本では今後人口の減少や若者のクルマ離れ等により、道路需要も自動車の需要も減るとされています。
おわりに
これまで8回(7年間)にわたって、京都府内の会員のご協力を得て、NO2測定大気汚染調査を行ってきました。その結果からは、これまで比較的汚染が少なかった地域が、道路の進展・発達・整備により、また自動車が混雑を避けるため幹線道路を避け、生活道路へ進入してきたため、汚染が進み、京都市内でも、京都府内でも平均化してきたように思えます。地球温暖化防止は、金融危機からの脱出とともに世界が直面する二大喫緊課題です。NO2や温室効果ガスの主役のCO2を減らすために、デンマークのコペンハーゲンでの気候枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の成功をめざし、「MAKE the RULE」キャンペーン運動を支援して、「気候保護法」の制定を政府に要求しましょう。
論 考
地球温暖化をくい止めるために〜新しいルール(法律)を作ろう〜
最近の異常気象による天変地異は枚挙にいとまがありませんが、今冬のオーストラリアの干ばつ、山火事による被害報道に接して、地球温暖化の危機は間近に迫っていると感じられます。
地球温暖化の原因は90%の確率で、人間活動によるものであるとIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は述べています。その主な原因は、CO2をはじめとする温室効果ガスで、すでに地球の平均気温は産業革命時より0・74℃の上昇を来したとされています。この平均気温を2℃までに抑えなければ、私たちの前途には大変な危機が待ち受けています。昨年の洞爺湖サミットでは、50年までに温室効果ガスの排出を半減すべきと合意されました。
日本はCO2の排出では、世界で5番目に多く、世界の排出量の約4%を占めています。07年の総排出量は13億7000万トンです(その内訳は図4の如くです。図4は06年度)。京都議定書で決められた1990年比6%削減の義務を負っているのにかかわらず、07年には8・7%も増えており、議定書の約束である12年末までに約15%の削減に努めなければなりません。すでに07年までに、ドイツは18・5%、イギリスは15・9%、EU27カ国で7・7%(06年)減を達成し、議定書離脱のブッシュ大統領に代わって登場したアメリカのオバマ大統領は、「20年までに90年レベルに削減し、50年までに更に80%削減」「再生可能エネルギーの取り組みのために毎年150億ドル(約1兆5000億円)を投入する」と表明しています。こうしてみると、先進各国の中で日本の取り組みのおくれが目立ちます。今年12月には、COP15が開かれます。この会議で京都議定書の約束期間(08〜12年)の次、つまり13年以降の排出削減の枠組みを最終的に決める予定です。これに向けて、気候ネットワーク(浅岡美恵代表)をはじめとする全国30以上の市民団体が、「MAKE the RULE」キャンペーンを行い、政府に「気候保護法」の制定等を求めて署名活動や地方議会での意見書可決運動を行っています。多くの人がこれに賛同し、運動に加わっていただきたいと願っています。地球温暖化を防ぐために、今何が問われ、どこで、誰が、どう動くか、一人ひとりが決断を迫られています。
図4 日本の部門別CO2排出量の割合
(2006年度12億7400万トン直接排出量)
運輸部門はCO2排出の約20%を担っています。このうち90%は自動車によるものです。NO2やCO2を減らすために、自動車中心社会の見直しが、今度の金融危機により世界中で一段と高まっています。モーダルシフト(輸送方式転換)、公共交通システムの新構築、都市交通網の整備、自転車の奨励・再評価、高齢者・弱者に優しいまちづくり等々、クルマ社会からの脱却が求められます。たった1つの地球を共有している私たち世界市民は、未来の子孫のために、今こそ生活や経済に節度ある規制を加え、持続可能な地球環境を築きあげましょう。