理事提言/医局派遣制度にかわる新しい制度の構築を

理事提言/医局派遣制度にかわる新しい制度の構築を

政策部会 大前 隆
政策部会 大前 隆

 医療崩壊の原因として、昨年は医療費抑制策と共に医師不足の問題が大きくクローズアップされて論議されてきた。「必要な時に、必要な場所に、必要な医師がいない」という現状は、医療が公共性のものだけに悲惨な社会現象が報告され、大きな問題を投げかけてきた。

 医師不足問題は今に始まったことではない。医療が進歩し、高度専門分化すれば、やがては医師数だけの問題ではなく、医師の偏在化、診療科目の偏在が生じる。

 さらに高度医療化社会になれば、医師の偏在化の素地は過去に比べさらに拡大されて当然である。それは日本だけの問題ではない。

 これまで、この医師不足問題は、大学の医局が半ば強制的に医師を派遣し、地方病院の医師不足を補い、地域医療に貢献してきた。

 そして派遣された医師は大学では研修できない、今求められている地域医療における医師の役割、公共性という重要なことを学んできた。

 それでは自治医大をはじめ、国立大学に各県一医大を作った目的はなんだったのか? 地方の医療行政の改善、医師不足対策でなかったのか?

 大学医師のほとんどが地域医療を離れ、専門医としての職を選択、ほとんど当初の目的は果たされていないときく。

 年末のNHKの医療番組の中、医師不足、偏在化の論議の中で、国立大学をはじめ公的機関の医科大学は全て税金でまかなわれているから、そこの医師は使命感を持って地域医療を守り貢献するべき義務があるという意見が出された。

 また産科医、小児科医のように不足する診療科を選択する学生には、学費の免除をするという案も出された。

 そして、医師不足対策として注目されたのは、国立大学だけではなく私立医科大学にも協力を願う、奨学資金貸与制度の案が新聞(朝日・08年7月25日)に掲載された。

 地域医療や、不足している診療科に情熱を持ち、将来医師として能力が高いのに、経済的に入学困難な受験生を対象に、合格を条件に私立医大を活用した就学資金貸与制度を柿原浩明・立命館大教授が提案。それによると、国立大学の現在の奨学金制度との違いは、学費はもとより生活費を含め6年間の修学資金全額で3千万〜6千万円程度の高額を貸し付ける。卒後、地方勤務や産婦人科、小児科になってもらい、年300万円程度の返済ですむようにして地域医療や診療科の偏在の解消に協力をねがう。

 この制度へのニーズは高いと思う。貸与額が高額なために「初志貫徹」される率が高いだろう。600人程度を対象とすれば財源は30億〜60億円程度、国の負担も少なく、医師を必要とする自治体の協力が得られれば、すぐにでも実施でき、また医師過剰になっても即応できるという。

 重要なことは、医師自身、医師を目指す医学生が今一度原点に戻り、「医療が国民の財産であり地域医療に基づく公共性の上に成り立っている」という認識を持ち、それを守るには、国公立医科大学からの公的義務派遣制度、また私学からの医師不足に対する支援策など、過去の医局派遣制度にかわる何らかの新しい制度を考えることが必要となろう。

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