裁判事例に学ぶ・医療事故の防止(12)アレルギー素因者には造影前からショック発現時の準備を

裁判事例に学ぶ・医療事故の防止(12)

アレルギー素因者には造影前からショック発現時の準備を

 68歳女性Aは、平成13年、喉の痛みを訴え順天堂大学附属病院耳鼻咽喉科を受診し、内視鏡検査で異常なく、翌年1月も左喉の痛みを訴え、放射線科に紹介され食道入口部から甲状腺等を含め頚部の精査に造影CT検査を平成14年1月17日に受けた。イオパミロン300シリンジR(非イオン性低浸透圧ヨード造影剤)が使用され、撮像時間は午前8時59分50秒から12・5秒間であった。撮像直後、Aは口腔内に液体が貯留し、呼名に反応鈍く、自発呼吸は残存していたが呼吸困難も認められ、吸引、酸素マスク投与、点滴全開、ソルコーテフR500?側管静注、ボスミンR点滴加注など救急蘇生が開始され、9時20分に挿管されたが、肺水腫から低酸素血症を来たして同日死亡した。死体検案書では、直接死因は「アナフィラキシーショック」で、原因は、「造影剤注射」と記載され、解剖所見としては「高度肺水腫、喉頭気管支粘膜小円型細胞浸潤浮腫。気管内多量・胸腔内約280mlの浸出液。…」とされた。遺族は、造影検査の適応判断誤り、危険性に関する説明義務違反、造影剤の慎重投与指示義務違反、不適切な水分摂取制限、造影剤の投与方法の誤り、救急蘇生のための薬剤選択の誤り、救命救急体勢の構造的欠陥などを根拠に、提訴した(請求1憶2715万円)。裁判所は、それらに過失があったとしても、死亡との因果関係がないとして、請求を棄却した。(東京地判平18・4・27、LEX/DB TKC 28111207)。

 造影剤によるアナフィラキシー(様)ショック発症切迫時の対応には、まず、静脈内投与開始後は、終了後まで安静状態を保ち、特に投与開始直後数分間の注意深い観察が求められ、しびれ感、不快感、口内異常感、喘鳴、眩暈、便意、耳鳴りなど即時型アレルギー反応を疑わす症状の出現時は、速やかに投与を中止する。バイタルサインをチェックし、血圧低下・気道閉塞症状・意識障害の有無などから重症度を評価し、静脈ルートを確保のうえ、アナフィラキシー初期治療薬としてエピネフリン、その他の薬剤や救急蘇生用の器具を予め準備し、処置を始めることが必要である。放射性造影剤での予防については、?使用予定の13・7・1時間前にプレドニゾロン50?経口投与またはヒドロコルチゾン200?静注、?使用の1時間前にジフェンヒドラミン50?経口投与または静注、?狭心症・不整脈などの禁忌がなければ、使用の1時間前にエフェドリン25?経口投与、?非イオン性低浸透圧造影剤の使用、を推奨するものがある(光畑裕正:アナフィラキーショック、小川節郎他編『麻酔科学スタンダード?関連領域』克誠堂出版129〜138、2004)。

 ヨードアレルギーに関連しては、心房中隔欠損症を疑い行われた検査でインドシアニングリーンR静脈内投与時のアナフィラキシーショック事件もある(名古屋地判昭62・8・24、棄却・控訴、判タ657・173)。対応および予防については?を除く上記と同様のことが考えられる。

 遅延性副作用で帰宅後にショックの危険性もあり、入院での実施が要る。

(文責・宇田憲司)

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