主張/診療報酬改定がもたらした医療破壊

主張/診療報酬改定がもたらした医療破壊

 今、格差問題が日本で深刻化している。生活保護は100万世帯を超え、年収200万円以下のいわゆるワーキングプア(働く貧困層)は1000万人以上、国民健康保険料を納められない世帯数は480万世帯とされる。さらに若年層で、派遣社員やパートなどの非正社員数は正社員を上回り、フリーター問題と共に社会問題となっていて、「格差問題は貧困問題になっている」と経済学者の金子勝氏も指摘している。

 憲法25条に「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定しているが、格差問題は人権保障に関わる問題であり、京都協会も社会保障基本法の制定に向けて運動に取り組んでいる。これら格差問題の根底には、市場原理主義や成果主義など経済学的効果優先などの政策があり、直接的にも間接的にも医療の世界に影響を与えている。

 地方での医師不足と地域医療の疲弊などによる病院崩壊、介護難民、家族崩壊による高齢者介護の現状や、約3万人とされる無保険の子どもの医療などは、破壊されつつある日本の医療や格差社会と無縁ではない。また、障害者自立支援法におけるリハビリ患者負担増や、介護にも自立支援の考えが導入されたため、介護サービスの低下や所得がなければ充分な介護が受けられない、という国民の不満も出てきている。

 2年ごとに行われる診療報酬改定において、医療費の抑制が図られてきたことも、これらの医療崩壊に対して大きな影響がある。例えば、診断名と処置、入院期間の短縮を柱にするDPC、つまり「診断群分類別包括払い」を導入すると診療報酬が増えるといった制度により、入院日数を短縮するほど診療報酬が上がるという歪んだ制度が作られた。その一方で、リハビリ制限や療養型病床の縮小のため回復期リハビリ病棟への在宅復帰率の導入や医療療養病棟入院料に診療報酬でのペナルティを課したこと、その受け皿の一つである開業医において、在宅療養支援診療所の設立による診療報酬の面での誘導などがあげられる。実際1万近い診療所が在宅療養支援診療所を申請したが、介護制度、地域での医療のネットワーク、病診連携という社会整備が不充分なままの医療では、在宅医療は成り立ちようがなく、機能不全に陥っているのが現状である。

 診療報酬制度は複雑で問題があるとしても、最近の診療報酬改定は、医療費抑制を目的に行われており、医療の本来有していた社会保障制度を支えるといった側面と相容れないものであり、医療を崩壊させ、疲弊させてきた要因といえる。

【京都保険医新聞第2669号_2008年12月15日_1面】

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