地球温暖化対策においても原子力は最悪の選択
麻生首相らにアピールを送付 柏崎刈羽原発を保団連が視察
保団連公害環境対策部会は11月2、3日、新潟県・柏崎刈羽原子力発電所で公害視察会を開催し、全国から38人が参加した。京都協会からも飯田理事と事務局ら3人が参加した。
新潟県のほぼ中央、柏崎市と刈羽村にまたがって位置する東京電力・柏崎刈羽原発は、420平方メートルの敷地に7機の原子炉があり、合計821・2万平方メートルで世界最大の出力を誇る。ここで作られた電気は、はるか遠くの首都圏に送られる。
柏崎刈羽原発は、07年7月16日に設計基準を大きく超える地震(中越沖地震・M6・8)に見舞われ、全機が停止中である。誰もが黒煙がもくもくと立ち上る原発の映像に大きな不安を抱いたことと思う。現場の職員が、変圧器の火災に対して消火しようにも、消火栓配管の破断により水が出ず、地元消防隊の到着を待つしかなかったなど、震災に対する危機管理のなさが露呈した。
今回は、震災から1年以上が経過した現地を視察し、原発の仕組みや原発を取り巻く地域の現状などを学んだ。
1日目は、新潟大学理学部・立石雅昭教授が「柏崎刈羽原発の震災被災と安全管理の問題」と題して講演。中越沖地震による被害のまとめ、原発事故のデータ捏造と事故隠しが繰り返される実態を示し、核施設の安全管理を電力会社やその利益を擁護する国に任せている現状に警鐘を鳴らした。
次に、京都大学原子炉実験所の小出裕章氏は「原発は地球温暖化防止に有効なのか」と題して講演。気温と二酸化炭素濃度の変化の図を用い、温暖化と二酸化炭素濃度の上昇は科学的な因果関係は証明されていないとし、海中に溶け込んだ二酸化炭素が、気温の上昇によって大気中に出ている可能性があることも示唆。そして、国や電力会社による「原子力は発電時に二酸化炭素を出さないから地球温暖化に有効」という宣伝に対して、(1)実際は、ウラン採掘、精錬加工、原発建設などさまざまな工程や発電時にも電気をはじめとした膨大なエネルギーを使用する。正しく言うならば、「原子力は、核分裂反応についてのみ二酸化炭素を出さない」と言うべきである、(2)核分裂現象は二酸化炭素こそ生み出さないものの、核分裂生成物を生み出す。生み出してしまった放射性廃物について、日本は300年間管理するのだと言う。それに、一体どのくらいのエネルギーが必要になるのか。もちろん二酸化炭素の放出も膨大になる。もし、現在の温暖化の原因が二酸化炭素にあるのであれば、原子力こそ最悪の選択である、(3)原発で得られたエネルギーの3分の2は、海水を温めることに使用しているため、原発は「海暖め装置」であり、まさに温暖化の原因である―の3点を指摘した。
そして最後に、温暖化問題の本質はエネルギーの浪費にあり、一刻でも早くエネルギー浪費型の社会を改める作業に取り掛かる必要があると訴えられた。
講演終了後、「柏崎刈羽原発の地震被災の実態をふまえた耐震安全体制の確立、および『原発は地球温暖化防止に有効』とする宣伝・広報の中止を求めるアピール」を参加者一同で採択し、麻生首相ら関係先に送付した。
柏崎刈羽原発広報部によるレクチャーのもよう
参加記 厳重警備の原子炉を見学
2日目には、定期検査中の4号機(沸騰水型軽水炉・日立製)を見学した。見学には、身分証明書が必要で、写真撮影は不可とのこと。
作業着とヘルメットを着用し、10人程度の班に分かれ、1班につき2人の係員が同行し、4号機に入った。セキュリティについては、IDカードを配布され、金属探知器のチェックのあと、1人ずつしか通れないゲートを2回も通るなど、厳重に行われていた。
使用済み燃料貯蔵プールや外された原子炉格納容器、タービンなどを、1枚1500万円もするという鉛入りのガラス越しに見た。そのガラスの内側で作業する人も見えた。
そして、いよいよ管理区域。入る前に、靴と靴下をはきかえ、軍手をはめ、放射能測定器を身につけた(意外と軽装備。てっきり、宇宙服みたいなのを着るのかと思っていた)。巨大な原子炉の周りをぐるぐる回りながら、非常用炉心冷却装置など、それこそ無数にある部品を見学した。
原子炉圧力容器の底を見学している時などでは、測定器が0・01mSvを記録し、ピーと音を発していた(お決まりのように「胸部X線撮影に比べるとたいしたことないですよ」と係員に言われたが…)。
見学後の質疑応答では、労働者の不安や医療体制などについて質問があった。広報部の方は、事故隠し等の事件を猛省したとし、こうした見学を受け入れるなど情報公開を積極的に行っている姿勢をアピールされていた。
世界最大の出力を誇った柏崎刈羽原発は、現在、電気を全く生み出してはいない。言うまでもなく、地震は致命的な状況を生むことが証明され、また、原発が抱える技術的問題の深刻さゆえに、1つの原発で起きた事故がほかの原発にも波及し、いっせいに停止せざるを得なくなる弱点もある。原発は安定電源とは到底言えない。
都市部で私たちが使っている電気のために、現地では、小学生でも原発について推進派と反対派との対立が起こっている実態があるそうだ。いかなる発電方法にも、それぞれに固有の問題があるとは言え、あの広大な土地を利用して太陽光発電、日本海から吹きつける風を利用しての風力発電なら、そんな悲しい対立は起こらないのではないか。もちろん、私たちの暮らしを見直すことこそが必要であることは言うまでもない。
装備を着用した参加者一同
(事務局・乾谷(いぬいだに) 綾子)
【京都保険医新聞第2667・2668号_2008年12月1・8日_4面】