第61回総会出席者アンケート
後期高齢者医療制度見直しと京都府保健医療計画について
調査日
調査方法
調査対象
回答数
4月に始まった後期高齢者医療制度には全国から批判の声が上がり、野党からは制度廃止法案が参議院に提出され可決、衆議院に送られたが6月20日に国会が閉会となり継続審議となった。一方で政府・与党は6月12日に低所得者の保険料負担軽減の拡大や年金天引き選択制を柱とした制度見直し策を決定した。
また、後期高齢者医療制度の創設を含む06年6月成立の医療制度改革関連法による医療法改正で、都道府県が「医療費適正化計画」の目標実現に向けた「新医療計画」を策定することが義務づけられた。京都府も3月に「京都府保健医療計画」を策定した。
それを受け、後期高齢者医療制度見直しの内容(下掲)と京都府保健医療計画について、総会出席者に意見を聞いた。結果は概要は以下の通り。
後期高齢者医療制度見直しについて
7割が制度の廃止を支持
はじめに、野党4党が提出した廃止法案が参議院で可決され、衆議院で継続審議となったことを知っているかを尋ねたところ、「知っている」90%、「知らない」10%で多くの会員が廃止法案の行く末に関心を持っていることがうかがえた(図1)。
続いて、政府・与党の見直し策によって後期高齢者医療制度の問題点が解決されると考えるかを尋ねたところ、「思う」2%、「思わない」80%で、見直し案で問題解決となると考える人はほとんどいなかった(図2)。その理由については、「年金からの天引きや、保険料軽減だけの問題ではない」「軽減策では十分ではない。税を十分投入すべき」「とりあえずの怒りをかわすだけ。時間が経てば結局元通りにする制度」「世論の反発を恐れた選挙対策としてのみの政策であり、問題の解決にならない」「政府は初めに財源の減額を決めて、それに合うようにすべてを考えている。高齢者の医療はどうあるべきかはお題目のみ」「国の医療費抑制ありきの考えがある限り、今後の高齢化に伴う医療制度見直しにあまり期待はできない」「医療・社会保障に十分な予算を充てられるよう、財政のあり方を変える発想がなければ難しい」などの意見が出され、制度設計の根本が間違っているという評価が多数寄せられている。
協会は別記《根本的問題》が後期高齢者医療制度の問題の根幹であり、これの解消のためには、制度の廃止しかないと考えていることの是非について尋ねたところ、「賛成」70%、「反対」3%で(図3)、「この医療制度をつぶさない限り、変わらないと思う」との意見にある通り多数が制度の廃止を求めている。
また、廃止後については、「仮に廃止してどのような保険制度にするのか、前の老人保健制度に戻すだけでは、国保や健保からの拠出金問題を繰り返すのみ。税金投入を増やし、保険料の大幅見直しが必要」「根本的には廃止しかないと思うが、後期高齢者医療制度に対する新しい対案を出すべき」「患者にとっては廃止が良いのは当たり前だが、その費用のことを考えるともっと具体的な費用捻出方法を考えることも必要」との単なる廃止に留まらない方向性を考えるべきとの意見も寄せられた。
新医療計画について
浸透していない位置づけ
06年6月成立の医療制度改革関連法(医療法改正)において、都道府県に対し、「医療費適正化計画」の目標実現に向けた「新医療計画」の策定が義務づけられたことを知っているかどうかを尋ねた。「知っている」49%、「知らない」51%で「知っている」は約半数に留まった(図4)。
新医療計画策定義務づけに応じて、京都府は3月末、健康増進計画やがん対策基本計画と一体化した「京都府保健医療計画」を策定した。このことを知っているかどうかについては、「知っている」37%、「知らない」63%で、「知っている」は4割に届かなかった(図5)。
新医療計画策定にあたって国は、がん・脳卒中・糖尿病・急性心筋梗塞の4疾病について、「発症から入院、そして居宅等に復帰するまでの医療連携体制を、医療圏域ごとに明示」することを求めている。これは、この連携体制に参加する医療機関名を計画本体に記載せよとの指示であり、京都府では、現在、まずは脳卒中の医療連携を担う医療機関名を医療計画に明記・公表するための「指定基準」の策定作業を行っている。このことを知っているかについては、「知っている」37%、「知らない」63%で、「知っている」は前設問と同様に4割未満であった(図6)。
前記連携体制の構築にかかわり、京都府保健医療計画では、すべての2次医療圏において脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病等について地域連携パスを実施することを「成果指標」として目標に掲げている。このことを知っているかどうかについては、「知っている」34%、「知らない」66%で、「知っている」の割合は一段と低くなった(図7)。
最後に、医療計画への医療機関名の書き込みと、そのための指定基準の策定についての是非について尋ねたところ、「賛成」7%、「反対」29%、「わからない」63%となり、「わからない」との回答が多数であった(図8)。
医療計画に関する各設問で「知らない」の割合が多かったことも含め、医療制度改革の中での新医療計画の位置づけへの理解が浸透していないことが、如実に表れる結果となった。
先の賛否の理由では「機能分担を医療機関にさせるのを行政主導で行うことになるが、医療機関のランク付けにもつながり、統制にもつながる。リスクを含んでいると思うが、しかし必要ではある」「時間を争う治療が必要なとき、どこの医療機関に送ればいいのかが明確になっていることは良いことと思う。ただ、医療にとって本当に必要な内容が基準とし取り上げられるかどうか、非常に不安」「診療所の機能分化の意図があると思われるが、地域住民や府民のフリー・アクセスの制限につながる危険性がある。また医療機関からしても、その診療意図・意識にかかわらず、診療が制限される危険性がある」「現状でも病院と連携できていないわけではないと思う。医療機関によって連携の在り方、能力、できる範囲など事情は様々で、画一的な基準を設けることで、かえって連携の中を狭くすることになるのではないか」「医療の隅々まで管理されることになり、専門医ないしこれに準ずる医療機関のみ患者の集中をきたすことになる」と、部分的に賛成する意見を含めて重大な懸念が表明されている。何より、新医療計画は医療費適正化計画との整合性を求められていることから、寄せられた意見にあるような事態が現実のものとなる危険性を十分に認識しつつ、医療機関名の明記やパスの活用・評価が、医療費抑制策ではなく患者・医療機関にとって有益なものとなるよう、今後の動向を注視しながら意見表明・情報提供を行っていきたい。
《政府・与党がまとめた後期高齢者医療制度の主な見直し策》【保険料軽減】 ・2008年度は、年金収入が年168万円以下の世帯(7割軽減世帯)は10月から半年間、保険料徴収を凍結し、保険料の「均等割」を実質8割5分減額 【保険料徴収】 ・〈1〉年金収入が年180万円未満で、口座振替できる世帯主または配偶者がいる〈2〉国民健康保険の保険料の滞納がない期間が2年―のいずれかに当てはまる人は、申し出により、年金天引きでなく、口座振替の選択も可能に 【診療報酬】 ・「終末期相談支援料」は当面凍結の取り扱いを中央社会保険医療協議会(中医協)で決定 【資格証明書】・相当な収入があるにもかかわらず保険料を納めない悪質な者に限って適用(報道では厚労省は「夫婦の世帯年金収入が373万円以下の後期高齢者には交付しないのが適当」とする見解を示した) 【その他】・70〜74歳の医療費窓口負担の1割据え置き措置、会社員の被扶養者の保険料負担軽減措置の1年延長 《協会の考える後期高齢者医療制度の根本的問題点》 ・同制度は、高齢者の保険料総額の10倍以内に給付を抑えなければならない仕組みになっている。高齢者の保険料負担能力に限界があることを考えれば、早晩、給付が天井に突き当たることは避けがたい。 |
【京都保険医新聞第2650号_2008年8月4日_3面】