脳血管疾患や虚血性心疾患で医療費抑制傾向/日医総研WP  PDF

脳血管疾患や虚血性心疾患で医療費抑制傾向/日医総研WP

 高齢者の1人当たり医療費が高く長期療養を要する疾病では、平均在院日数短縮などの影響により、医療費が抑制されている実態がうかがえる。こうした調査結果が、日医総研ワーキングペーパー(WP)「国民医療費の伸びの要因分析」から浮き彫りになった。高齢化により医療費が増えると見込まれている脳血管疾患や虚血性心疾患(いずれも入院) は、高齢者の受療率低下が顕著であり、実際の医療費は人口増減と高齢化から計算した医療費を下回ったとしている。WPは医療費の伸びについて「国は、きめ細かいエビデンスも踏まえて検討し、行き過ぎた抑制については転換すべきだ」と結論付けている。

 同WPは、厚生労働省が医療費の伸びを「医療の高度化などの自然増」と説明していることに対し、「実際には疾病構造や受診率の変化、背景にある医療制度改革などのすべての要因が含まれるため、『医療の高度化』を強調するのは不適切だ」と指摘。人口増減と高齢化から推計される医療費の伸びと、実際の医療費の推移を比較し、要因が「医療の高度化」なのかどうか検証した。

 人口増減と高齢化から推察される医療費は、2000年度の年齢階級別国民1人当たり医療費を、06年度までの年齢階級別人口にそれぞれ乗じて算出。00年度を100とした時の06年度までの数値を「人口増減と高齢化によって伸びるべき医療費」とし、同様に00年度を起点とした「実際の医療費」との乖離を比較した。

 その結果、脳血管疾患や虚血性心疾患(いずれも入院) は、年齢が上がるにつれて1人当たり医療費が高くなり、高齢化による医療費増が見込まれた。ただ、06年度の「人口増減と高齢化によって伸びるべき医療費」は脳血管疾患の121.0、虚血性心疾患の116.6に対して、「実際の医療費」は脳血管疾患が114.4、虚血性心疾患が103.5で、「実際の医療費」は「人口増減と高齢化によって伸びるべき医療費」を下回っていた。

 これらの原因としてWPは、入院受療率の低下を指摘。脳血管疾患の人口10万人対入院受療率の推移を見ると、総数は99年で172.0人、02年で178.0人、05年で183.0人と微増傾向なのに対し、75歳以上では1566人、1462人、1332人と低下している。また、虚血性心疾患では、総数が23.0人、19.0人、16.0人と減少しているものの、75歳以上では169人、122人、92人と落ち込みが大きかった。

 WPはまた、悪性新生物や精神・行動の障害についても分析している。悪性新生物は入院で、平均在院日数の短縮が進む一方、入院外の患者が増加したと指摘。入院外では、ほかの傷病に比べて高齢者の単価が上昇しているのが特徴的で、外来化学療法など医療の高度化の影響もあると推察している。また、精神・行動の障害では、とりわけ入院外で若年層の受療率が増加し、医療費が上昇していることから、若年層への対策が重要な疾病の1つだとしている。(11/10MEDIFAXより)

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