⽇本の薬価をめぐる諸問題  PDF

 この危機感は、保険医にとってみれば給付抑制政策の下、医療費財源が絞り込まれている情況下では、医師の技術料にも悪影響を与えかねないということから生じている。協会は9月、大阪府保険医協会事務局・全国保険医団体連合会政策部事務局小委員として、長年に亘って薬価問題を取り扱ってきた小薮幹夫氏を招き学習会を開催した。

1 . 同じ医療保険財政に依拠しながらなぜ薬剤費だけが?
 医療の技術料は低すぎる。
 同じ保険財政に依拠しているのに、ひとり製薬メーカーだけが、景気変動の影響を受けず、安定的に過剰な収益を上げている。
 薬価は2 年ごとに引き下げがなされている。しかし総体としての薬剤費は下がることがない。薬価を下げても薬剤料比率は上昇トレンドである。
 驚くべきことに、厚生労働省は薬剤費総額を把握していない。
 国民医療費等で発表されている「薬剤費」には包括点数に含まれている部分が含まれていないのである。
 そこで私たちが、厚生労働省保険課と共同で総薬剤費をはじき出してみた。
 すると2010 年は9.83 兆円、総医療費の26.8% となった。現在、10兆円を超えている。
 処方せん単価の推移をみると、薬価は上昇し続けている。
 2014 年度から15 年度の上がり方などは、あり得ないほど極端なのものだ。
 要因のほとんどが「ハーボニー」と「ソバルディ」だった。
 これほどに処方せん単価が伸びるということは、薬価算定の決定メカニズムに問題があると結論づけずにはいられないのである。

2 .国際比較でも高い日本の薬価
 日本の算定の仕組みの前に、諸外国の制度をみておく。
 2010年薬価について、保団連が国際比較調査結果を発表し、中医協でも取り上げられた。
 日本の薬価は国際的にみても高いことが明らかである。
 アメリカの薬価は自由価格制で高いのだが、日本もそれと同等な高さである。
 要因を分析すると、「新薬」の金額シェアが非常に高いことがわかった。先発メーカーは、後発医薬品が出てくることへの対抗策を講じる。
 一例として、「エバーグリーン戦略」がある。特許が切れても後発医薬品の参入をさせないための延命策である。たとえば水なしで飲めるようにする、他成分配合等によって「新薬」とされ、また特許を延長させる手法である。

3 . 高薬価を生み出す様々なからくり
 日本の薬価算定制度の仕組みをみてみる。
 一見、厳密であるかのように見えて抜け穴だらけ、厚労省担当部局( 医療課) の胸先三寸でいかようにでもなる仕組みである。
 新医薬品の薬価算定プロセスの流れとして、まず薬事承認前に、新薬の審査(治験段階)がある。これを担うのはPM D A (独立行政法人医薬品医療機器総合機構)なる厚労省の外局である。
 薬事承認されると90 日以内に自動的に薬価収載されるが、おそらく自動的に収載される仕組みを採っているのは日本のみである。
 実際の運用では、たとえば、降圧薬等、競争が激しい薬剤の値段を敢えて下げることもあるなど、厚生労働省の担当部局や製薬企業による「裁量的な判断」が介在する余地が極めて大きい。

1)非公開の薬価算定組織
 図中の「薬価算定組織」は、薬事承認された薬に「仮薬価」をつける重要な組織である。
 にもかかわらず、この組織の議事録・メモは一切存在せず、会議も非公開である。今どき、閣議ですら議事録が出るご時世である。
 一体どのように決めているのか。
 もはや、国家機密扱いとしか思えない。薬価のつけ方が開示されていないのである。
 そのことが昨今になってようやく、中医協やメディアでも問題視されるようになってきた。

2)補正加算率の存在
 「補正加算率」は、類似薬のある・なしにかかわらないもので、製薬団体の要望で年々増えている。
 さらに2014 年度には「先駆導入加算」がこっそり導入された。
 外国に先駆けて日本で薬事承認されたオプジーボのような薬への10% の加算である。
 これは中医協の薬価専門部会でも叩かれたにもかかわらず導入された。
 こういうあれやこれやの仕掛けで、薬価は釣り上げられていくのである。

3)原価計算方式
 新薬の「原価計算方式」は、字面だけみると、「原価でやっているからリーズナブルではないか」と思えるかもしれない。
 だがここにも大変な問題点が隠されている。
 原価計算方式とは、要するに様々なコストの積み上げである。
 消費税・流通経費・営業利益・販売費・研究費・労務費…と、ありとあらゆる経費を積み上げていく( 原発と同様の方法)。
 驚いたことに厚生労働省は積み上げられた原価の検証すらしていない。
 その理由を保険課に聞くと「私たちには検証する能力がない」とのことだった。
 まさに製薬メーカーの言い値なのである。
 最初は、オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品) として申請し、原価計算方式で高い薬価を決める。その後で効能を拡大することで市場規模を広げて利潤を独占するのである。これがオーソドックスなやり方であり、オプジーボも最初はメラノーマとして申請され、同様の手法で市場を拡大した。
 原価計算で算定された新薬は、年々増えている。
 営業利益率は、オプジーボの場合、60% という過去最高の加算がつけられている。

4)不可解な薬価算定に垣間見える「恣意性」
 不可解な薬価の算定例として、古くは「トレリーフ」( 大日本住友製薬)の例があげられる。
 これは、もともと同一成分の抗てんかん薬として売り出したものの薬効を変え( パーキンソン病)、新薬としたものである。同一成分でも薬効が変わるだけで何と113 倍の薬価がついた。
 その後、大日本住友の糖尿病薬「メトグルコ」( メトホルミン)は、同社が有するメルビン錠250mg と同一成分・同一含有量であり、違いは常用量と1 日最高量だけだった。明らかに、トレリーフの例に倣う「二匹目のドジョウ」狙いだった。しかし結果的には原価算定方式を採用したにもかかわらず、0.3 円高くなっただけだった。
 実は私は、メトグルコが薬事承認された時点で、担当課長補佐に電話をし、「メトグルコの薬価がいくらになるか、注視していますよ」と伝えていた。厚労省がひどく狼狽したのを覚えている。
 こうした例からも、薬価の決め方は極めて恣意的なものなのだと気がつかされる。

5)外国平均価格調整ルール
 外国平均格調整ルールは、大阪協会の薬価国際比較調査(1994、1995) が直接の契機となって導入されたものである。
 調整によって、引き上げも引き下げもあり得る仕組みである。
 この仕組みによる矛盾として、乾癬治療薬の「トルツ」の例をあげておく。
 「トルツ」は、当初申請額が14万6244円だったが、極端に高いアメリカの薬価に引きずられて1.7 倍の24万5873 円にもなってしまい、中医協で問題となった結果、処方制限が課され、イーライリリーは申請を取り下げた。
 アメリカの薬価はあくまでメーカー希望小売価格であり、実際は半額くらいで売られている。しかし厚労省は希望価格を用いて価格調整してしまい、こうした事態に陥ってしまったのである。なお、外国平均価格調整ルールは、引き上げられた実績の方が多い。
 以上のように、様々なからくりが薬価決定の過程には組み込まれている。それによって、厚労省と製薬メーカーが思うがままの状態にあると言わざるを得ないだろう。
 さすがにオプジーボの問題以来、全体にセンシティブになってきた。
 中医協の発言も保団連の薬価算定改定要望に沿ったものとなってきていると考える。

4 . 日本の製薬メーカーの創薬力は?
 視点を変え、日本の製薬メーカーの創薬力についての状況をみておく。
 日本は創薬につては圧倒的に輸入が多い。2011 年に1 兆4233 億円輸入に対し、輸出は4000億円程度でほとんど伸びていない。
 財務省もこれを問題にしている。あれほど国庫からお金をつぎ込んでいるのに創薬力が上がっていないではないか、と。
 小野薬品のオプジーボという大ホームランがあったとはいえ、総じていえば大手の自社創薬比率はむしろ低下している。
 製薬メーカーの研究開発費は、100 億~ 200 億円かかるとメーカーはいうが、法人税額から30%控除できる仕組みがある。2009 年度から始まり、まだ続いている。これは民主党政権下での「事業仕分け」の場で問題にされた。
 2008年の製薬業界の税額控除は約600億円である。
 そこまで優遇しているのに、イノベーションはそれほど進んでいないのである。

5 . 働かない市場メカニズム
 厚生労働省は、新薬収載時に少々高い薬価がついたとしても、いずれ市場競争の中で下がっていくと主張する。しかし、それは二つの面から嘘である。
 一つは医薬品流通の特殊性である。経済学の教科書をみると、需要と供給の均衡点で市場価格が決まると書かれている。しかし、医薬品はメーカーが仕切り価格( 医療機関への販売単価) を決めている。市場メカニズムがまったく働いていない。公正取引委員会もこれで自由競争と言えるのかと指摘している。
 もう一つは新薬創出加算である。これは実態として、画期的新薬を開発すると2 年に一度の薬価引き下げの対象から外されるものである。後発品が出るまでの12.4 カ月薬価が下がらない。
 要件をみると、要するに安売りをしなければ薬価が下がらない仕組みである。
 総薬剤費の34%が新薬加算の対象品であり、この対象品目については薬価が絶対下がらない。新薬加算で、例えば「ニューロタン」だけでも、約900 億円の純利益が生み出されている。
 以上のように、流通面と新薬加算によって、新薬の薬価は下がらない仕組みになっており、市場メカニズムとは何も関係のないものとなっている仕組みになっているのである。
 一時「ドラッグラグの解消」が求められたが、今ではかなり解消されている。E Uよりも審査期間は既に短い。業界ではこれ以上短くすると危ないと囁かれており、外国比較でいうとドラックラグはもうない。

6 .粗利が7 割の製薬業界 医療費の配分見直しを
 製薬企業の財務をみると、粗利が7 割もある。そんな業界は他にない。
 内部留保も多額であり、産業別にみても利益率は突出している。
 私の問題意識は、医療技術料が低すぎて、薬価が高すぎるという医療費の配分を見直さないとだめだということだ。
 入院外来の受療率は落ち込み、平均診療間隔もあいている。
 「一人あたり医療の伸び」の要因分析をすると、伸びているのは薬・モノである。
 技術料の伸びはない。
 1 人当たり平均受診回数(年)と一回受診あたりの医療費比較を国際的にみると、日本の医療機関は圧倒的に再診料で支えられている。
 再診料1 点で100 億円といわれるが、オプジーボ1剤の値段を半分に下げると再診料が50 点引き上げになる試算がある。

7 .おわりに
 オプジーボは20 年間の研究の経験からも、これほどのあからさまな高薬価は初めてである。
 日米英のオプジーボ薬価を比較した。イギリスはかなり緻密に費用対効果評価をしている。イギリスはメーカー小売価格が高すぎるので半額にせよとN HS がいい、今、メーカーとディスカウント交渉している。それが決まると、オプジーボの薬価はイギリスの10 倍になる。今後日本でも費用対効果をやるといっているので、N H Sのやり方は参考になるだろう。
(文責・京都府保険医協会政策部会)

(付) 高額薬剤問題をめぐる取組と中医協での議論状況
 全国保険医団体連合は9 月6 日に記者会見を開き、「『高額薬剤』への対応と薬価制度改善を求める要望書」を塩崎厚生労働大臣宛に提出したことを報告した。
 要望書(別添)は、① 新薬の薬価算定プロセスについて、厚労省の裁量的判断を排し、算定経過を公表・開示すること、② 効能追加があった時点で、すべて市場拡大再算定(下図)の対象とすること。オプジーボ価格は緊急に引き下げること、③ 外国平均価格調整ルールと、④原価計算方式の見直し等を要請した。
 小薮氏が講演で指摘した問題点が、国に対して突き付けられたのである。
 これを受け、中医協は10 月5日の第119 回薬価専門部会で緊急対応方針を示し、従来2 年の一度の見直しで行う「市場拡大再算定」(右図)の仕組みの考え方を特例で活用し、「最大25% 」引き下げを示した。
 しかし、10 月18 日に保団連がさらに、「オプジーボ薬価について英米独の実勢価格を踏まえて大幅に引き下げるべき」との要望書を厚労大臣に提出し、さらなる引き下げが必要と訴えた。
 そうした動きもあってか、10 月28 日の日経新聞が「オプジーボ大幅値下げ」「政府、25%から拡大」と報じたように、25% の値下げに止まらず、さらなる値下げ幅の拡大へ動き始めている。
 日経新聞は次のように報じている。
 「全国保険医団体連合会によると、米国でのオプジーボの薬価は日本の4 割、英国では2割程度にすぎない。厚労省が決めた通り25% 下げたとしても、国内外の価格差は開いたままだ。厚労省は新薬を保険適用する際の海外の薬価に近づける制度の活用を検討しており、50% 程度の大幅な引き下げも視野に入れる」小薮氏が講演したように、保団連が長年追求してきた異常な高額薬剤を生む構造自体への批判が共有され、少しずつではあるが、国を動かそうとしているのである。
 一方で懸念もある。こうした期中での引き下げが常態化すれば、医師の技術料等へも影響が予想されるからである。
 こうしたことからも、引き続き、緊急対応の値下げで良しとするのでなく、異常な高薬価を生み出す構造自体の変革を求め、取組を強める必要がある。

保団連の要望書
厚生労働大臣 塩崎恭久殿
2016年9月6日
全国保険医団体連合会 会長 住江憲勇

「高額薬剤」への対応と薬価制度改善を求める要望書
 前略 貴職が医療行政・国民生活に果たされます重責に敬意を申し上げます。
 私ども、全国保険医団体連合会(会長:住江憲勇、略称:保団連、会員数10 万5千人)は、全国の医師・歯科医師で構成する団体です。
 本会は、かねてより日本の高薬価構造を指摘し、薬価算定過程の透明化など公正で透明な薬価制度の実施を求めてきました。現在、薬価の在り方に関わって、中央社会保険医療協議会において、オプジーボ(一般名:ニボルマブ)などの「高額薬剤」に対する緊急対応策が検討されています。
 つきましては、本会としまして、国民皆保険制度を維持しつつ、経済力に関わらず患者・国民に良質な医療を平等に保障するためにも、現行の薬価算定制度について、下記の事項を要望いたします。

1、新薬の薬価算定プロセスについて
(1)厚労省担当部局の裁量的判断を排し、算定経過を公開すること。
(2)PMDA及び薬価算定組織で議論された内容や資料については、個人のプライバシーに関する事項や特許関連の事項を除きすべて開示対象とし、ホームページ等で公表すること。
2、既収載品の市場拡大再算定ルール
(1)効能追加があった時点において、すべて市場拡大再算定の対象とすること。薬価の引き下げ幅は米英独仏の実勢価格を踏まえること。
(2)英国の5倍にものぼるオプジーボの薬価を緊急に引き下げること。緊急性から期中改定とするが、前例としないこと。
3、「外国平均価格調整」ルール欧州各国での薬価からそれぞれの国で定める薬局マージンを差し引いた金額、米国については薬価表に表示されている製薬企業希望小売価格(AWP)の72%を基準に比較すること。
4、原価計算方式
(1)臨床試験で比較した薬が薬価収載後10 年以上の場合でも、原価計算方式とはせず、類似薬効方式で薬価算定すること。
(2)使用される係数のうち、そもそも異常に高い営業利益率は引下げて計算すること。少なくとも、製造業平均との中間レベルの営業利益を確保する水準までベンチマークを引下げること。
(3)製品総原価の内訳を公表すること。5、市場での取引価格の高止まりの要因である「新薬創出等加算」と「建値(新仕切価)制度」を即時廃止し、医療機関と医薬品卸との間での自由な経済取引を保障すること。
※詳細については、「『公正で透明な薬価制度改革』のための要望書」(全国保険医団体連合会、2012 年lI 月8日)を参照されたい。
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厚生労働大臣 塩崎恭久殿
2016 年10 月18 日
全国保険医団体連合会 会長 住江憲勇
オプジーボ薬価について英米独の実勢価格を踏まえて大幅に引下げるべき
 前略 貴職が医療行政・国民生活など国政に果たされます重責に敬意を表します。
 私ども全国保険医団体連合会(略称:保団連、会員数10 万5千人)は全国の医師・歯科医師で構成する団体です。
 近々、抗がん剤オプジーボ(一般名:ニボルマブ)について緊急の薬価引下げ案が中央社会保険医療協議会に示される見通しです。開発元の小野薬品工業が示した2016年度の予想販売額1,260 億円(メラノーマ(保険適用2014 年9月)、非小細胞肺がん(同2015 年12 月))を基に、市場拡大再算定の特例(年間販売額1,000 億~1,500 億円等)を活用して、最大25%引下げる方向が想定されています。
 しかし、本会としては、①日本のオプジーボ薬価が英米独と比べて、約2.4~5.2 倍と異常に高いこと(更に、実勢価格では約3~10 倍の価格差が見込まれる)、②今後も腎細胞癌はじめ適用患者の大幅な増大が見込まれること、③最初の薬価算定時点(メラノーマ)で企業利益等は保証済み。現状(肺癌への保険適用拡大)で既に患者数は当初の32 倍に拡大、④首相も薬価の大幅引下げの検討を事実上指示、⑤国民皆保険制度の維持は国是―などの理由から、オプジーボ薬価については、英米独の実勢価格を踏まえた水準にまで大幅に引下げるべきと考えます。
 何卒、趣旨をご理解賜り、ご尽力いただけますようお願い申し上げます。
要望
 オプジーボの薬価について、英米独の実勢価格を踏まえた水準にまで大幅に引下げること。やむをえず、市場拡大再算定の特例を参考にする場合は、市場拡大再算定の特例(年間販売額1,500 億円超等で薬価最大50%引下げ)を活用して、現行の薬価の50%水準にまで引下げること。
理由等
1.日本のオプジーボ薬価は、英の5.2 倍、独の3.7倍、米の2.4 倍(大臣国会答弁)
 10月6日の参議院予算委員会にて、塩崎恭久厚生労働大臣は、オプジーボの価格について、企業に聴取した結果、1バイアル(100mg/10ml)につき日本の価格73 万円に対して「イギリスは14 万円、ドイツは20 万円、アメリカは30 万円」と答弁いたしました。
 9月に保団連が発表したオプジーボ薬価について、日本はイギリスの約5倍、アメリカの約2.5 倍との比較調査結果を事実上認める答弁です。
 本会の調査結果で示したように、実際に販売される実勢価格では、厚労大臣答弁を下回ります。アメリカでは30 万円(AWP:製薬企業希望小売価格)から約2割引された24 万円前後であり、日本と約3倍の価格差となります。イギリスに至っては保険償還(非小細胞肺がん)に際して、少なくとも7万円前後の半額程度にまで値下げされる見通しであり、日本との価格差は10 倍にのぼるとも予想されます。日本の薬価が異常に高い現状厚労省も認めている以上、英米独における実勢価格を踏まえた水準にまで薬価を大幅に引下げることが検討されるべきです。

2.更に、腎細胞癌はじめ適用患者の大幅な増大が見込まれる
 オプジーボについては、現在のメラノーマと非小細胞肺がんに係る適用に加え、8月に一定の腎細胞癌(年間患者数4,500 人)が薬事承認され、早ければ11月初めにも保険適用される見通しです。他にも、薬事承認申請中が2癌種、治験で6癌種がフェーズⅢ、5癌種がフェーズⅡの状況にあり、引き続き、保険適用される患者の大幅な拡大が見込まれています。
 やむをえず、厚労省が示すように、市場拡大再算定ルールの特例を参考にする場合は、オプジーボの年間販売額は1,500 億円超となることが確実であると見られることから、市場拡大再算定の特例(1,500 億円超等)による最大50%の引下げ幅を活用して、現行薬価の50%の水準にまで引下げるべきです。

3.最初の薬価算定時で利益回収等は保証済み。患者数も当初の32 倍に
 大幅な薬価の引下げは企業の研究開発意欲を削ぐとの指摘がありますが、そもそもオプジーボの薬価は、当初の販売見込み(メラノーマ:ピーク時年間470 人)で研究開発費、製造原価、営業利益等を回収できる水準で設定されています。
 類似薬のない新薬として、原価計算方式が適用され、製造業平均よりも約3倍以上の極めて高い営業利益率(上場企業30社程度の平均16.9%)を保証しています。
 更に、画期的新薬であることなどを理由として、営業利益率を6割(10.1%)増しにした27.0%をベースにして薬価が設定され、大幅に超過利益となるように算定されています。
 対象患者数だけをみても、非小細胞肺癌への保険適用拡大で、約1.5 万人と患者数が当初の32 倍に拡大している中、最大25%の薬価引下げでは全くもって間尺に合わないものと言わざるをえません。

4.オプジーボ薬価引下げへ、首相「歳出改革の加速化を」(諮問会議10/14)
 10月14日の経済財政諮問会議で、民間議員が提出したペーパーで本会の比較調査結果が掲載され、「オプジーボに係る薬価の大胆な引下げ、効能追加などに伴う期中の再算定ルールの明確化を実行すべき」としています。「50%以上の引下げが必要」などの民間議員の指摘を受けて、安倍晋三首相は「高額薬剤の引下げなどについて、塩崎大臣を始めとする関係大臣に、今後、議論を深めて対応策を具体化するよう指示」(経済財政諮問会議・第16 回記者会見要旨、10 月14 日)するとともに、「対応策を具体化し、歳出改革を加速していただきたい」と述べています。歳出改革を加速化する方向での検討指示からも、オプジーボ薬価について大幅な引下げを検討すべきです。

5.国民皆保険制度の持続は国是
 国民皆保険制度の維持・持続可能性は、政府が示す国是です。医療費の増加において薬剤費の占める割合が年々上昇し、特に単価等が極めて高い「高額薬剤」が大幅に医療費を押し上げ、国保はじめ保険者の財政を圧迫していることは、政府統計からも明白になっています。「適正水準」にまで薬価を引き下げて、皆保険制度への財政圧迫を軽減することは急務です。多くの患者・国民が最新のがん治療の恩恵を受けられるようにするためにも、大幅な薬価引下げの検討が求められます。

以上

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