乗り鉄ドクの趣楽悠遊 vol.10 村上 匡孝(綴喜)  PDF

のと里山里海号 能登内浦の世界農業遺産を走る(のと鉄道)

 乗り鉄ドクはEarly Bird。車で能登の旧国鉄蛸島線の廃線跡を辿っていきます。
 蛸島駅。昭和の映画やドラマによく使われた終着駅。今も残存する駅舎や線路に佇み、昔日の情景や場面に思いを馳せます。
 宗玄駅。駅舎はありませんが、近くにそびえる荘厳な蔵と屋敷が名酒「宗玄」の蔵元です。ちょこっと道草をして、海沿いの駅、恋路駅へと向かいます。恋路…なんとロマンチックな響きでしょう。往年のDiscover Japan、国鉄栄光の時代には、駅の名が醸す浪漫と美形の海岸や能登のセンチメンタルジャーニーに憧れたロマン派の若者たちが押し寄せたものでした。ホームも線路も「ディスカバージャパン」や「いい日旅立ち」のポスターもそこに残っています。
 今は夏の限られた日だけ、恋路駅から宗玄トンネルの間を眼下に広がる恋路海岸を眺めながら自分の足でこぎ進む、奥のとトロッコ鉄道「のトロ」が運行されています(写真1)。当時若モン今オジンは我一人、ホームに佇むのでありました。
 珠洲駅。駅舎もホームも国鉄時代の車両も保存されています。国鉄時代の資料や古き能登の写真が展示されたミニ博物館と、海の幸と山の幸が集まる市場とにリノベートされた駅で、地料理で腹ごしらえして、能登みやげを調達して穴水へ向かいます。
 のと鉄道の終点である穴水駅から、能登半島の内浦を走る観光列車「のと里山里海号」に乗って七尾に向かいます。里山車両(NT301)の濃紺の外観は日本海の深い青を表現し、能登の黒瓦のように美しく輝く鏡面仕上げがなされ(写真2)、車内には能登に息づく工芸品が並び、シートはオレンジ色を基調に統一されています(写真3)。列車でスイーツとコーヒーを味わいながら、アテンダント手作りの絵や鮮やかなイルミネーションが壁一面に飾られたトンネルをくぐり、「“世界農業遺産”能登の里山里海」の風景を車窓から鑑賞し、昔ながらの黒瓦の集落や一面に広がる田園風景、穏やかな七尾湾を眺めながら揺られながら進むスロートレインの乗り鉄旅。酒杯を傾けながらの乗り鉄の一等地、一境地といえましょう。
 能登中島駅に途中停車。ここには日本遺産の鉄道郵便車オユ10が保存されていて、乗客は郵便車の中を特別に見学することができます。鉄道郵便車が活躍した昭和30年代の情熱を感じ、厚く熱い旅の余韻となりました。
 今回の推し地酒。宗玄 純米吟醸 Samurai Princess (宗玄酒造、珠洲市宗玄、石川)
 (のと里山里海 2021年2月乗)

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