主張 多死社会 穏やかな看取りへ  PDF

 「少子高齢化」「超高齢社会」毎日のように目にするこれらの言葉が集約される2025年問題はすぐそこにきている。団塊の世代よりピースサインに使う指の数だけ若い私にも他人ごととは思えない。これと切り離すことのできない「多死社会」も現実の問題となっている。一時に比べて減少傾向にあるとはいえ、病院死が圧倒的に多い我が国において、今の割合を持続するのは到底不可能といわれる。いかにして在宅死(個人的には病院外死が適当と思うが)へシフトさせるか。政府はあの手この手で誘導を試み、行政組織の末端である市町村にもさまざまなプレッシャーをかけてきている。
 当地の高齢者対策担当部署も例外ではなく、今年度の重要テーマに「看取り」を掲げた。「ACP」本邦では「人生会議」というそうだが、この普及推進に向けた取組みが種々検討されている。その一端として在宅医療に携わる医師4人による講演シリーズ「人生の寺子屋」なるものが企画された。すでに2回が終了し、年内に完結の予定となっている。反響は予想外に大きく、定員20人の倍以上の参加実績を上げている。関連して企画された「訪問看護ステーションスタッフと救急隊員の意見交換会」も大盛況で、予定時間を過ぎてもほとんどの参加者が居残り、グループワークの時間内で話しきれなかった熱い論議を続けていた。
 この問題において避けて通れないものの一つに「DNAR」への対処がある。在宅看取りの方針であったが、苦しむ姿を見かねたり、不安に駆られて119番通報するケースは少なくない。コールを受けた救急隊員は、その使命業務である「救命処置をしながらの病院搬送」を遂行せざるを得ない。現場で「DNAR」の事実が判明し、家族とトラブルになる事態が増加しているそうだ。東京消防庁をはじめ複数の消防本部では、一定の条件の下、不搬送とする対応がとられている。
 この動きは全国に拡がってほしいと願う。それにはかかりつけ医の積極的な関与が欠かせない。24時間365日全てのケースに駆けつけることはできなくても、かかりつけ患者からの緊急コールには、可能な限りの対応は必要と考える。とりあえず「本日の診療は終了しました」の録音音声が流れるだけの事態が減ることを期待したい。

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