鈍考急考 46 原 昌平 (ジャーナリスト) 少人数学級より教員の複数配置を  PDF

 小中学校の先生のオーバーワークが問題になっている。
 多過ぎる事務作業、足りない授業準備時間、放課後や土日に活動するクラブの顧問、保護者からのクレーム……。
 公立学校の教員には、給料に4%上乗せする代わりに、時間外や休日勤務の手当を支給しない給与特別措置法が残る。昔と違って長期休暇中も学校へ出ないといけない。
 メンタル不調の教員は増え続けている。労働実態が知られるにつれ、教員志望者は減り、人手不足も生じている。
 そこで進められているのが少人数学級化。小中学校とも40人が上限だったのを、小学校は2021年度から35人へ段階的に移行中だ。
 よく耳にするのは、さらなる少人数化を求める声。
 だが、より少人数化することが本当に良いのだろうか。
 クラスを少人数にすれば、一人ひとりの子どもに目が届きやすいのは確かだ。テストの採点や添削、個別指導にかかる労力も減る。
 けれども教員1人が受け持つ授業の時間数は同じ。教室の数がたくさん必要になる。
 子どもにとってはどうか。クラスの人数が減ると人間関係の範囲が狭くなり、相性の良い友人と出会う機会が減る。有力なグループからにらまれたら居場所がなくなる。
 学級の人数をあまり減らすより、本格的な複数担任制や教室に複数の教員を配置するほうがよいのではないか。
 メインとサブに分かれたら準備を含めて授業の負担は減る。授業中の個別指導もしやすい。生活面の指導や保護者への対応も相談・協力して取り組める。経験の差をカバーでき、休みも取りやすい。
 教員は伝統的に単独で授業をしている。教職に就いたら、いきなり1人で本番。副担任がいても実質的ではない。
 1人で責任を負い、代わりがきかないことは過重労働、メンタル不調を生みやすい。
 他方で、教室では一国一城の主だから、能力や資質に問題があっても外部へ伝わりにくい。そういう教員が担任になると、子どもは1年間、救われない。複数担任なら、2人とも外れという事態は起きない(よう配置できる)。
 もう一つの課題は、障害児のインクルーシブ教育だ。普通学級で一緒に学ぼうという理念は良いとしても、実際にどうするのか。授業の方法の工夫だけでは済まない。
 特別支援学級の教員配置基準は子ども8人に1人。特別支援学校なら6人に1人(重複障害児は3人に1人)。
 個別の配慮や指導の手厚さを求めて支援学級、支援学校を希望する保護者は多い。
 身体、知的、発達、情緒など様々な障害を持つ子どもがいる。十分に配慮して統合教育をするには、教室に教員が複数いないと無理だろう。
 複数配置という発想がありうるのは、教育に限らない。
 例えば生活保護のケースワーカーは、一定の地域を1人で受け持つのが一般的だ。
 担当ケース数が法律上の標準より多過ぎることが大きな課題だが、利用者の性別や相性、ワーカーの経験、孤立防止などを考えると、担当地域を広げても男女ペアで配置するほうが良いかもしれない。
 頭を柔らかくしたい。

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