シリーズ環境問題を考える 161  PDF

ライチョウケージ保護に参加して
絶滅危惧種からの脱却を願い その

 午後からの散歩の最中に突然の雷雨がありました。激しい雨に濡れると、雛たちは低体温症になりひどい場合は死んでしまいます。雛たちははじめ岩の陰に雨宿りしていましたが、雨が強くなると母鳥の羽の下に潜り込み始め、最後は7羽全て母鳥の羽の中で顔だけ出して温めてもらっていました。雨は1時間ほどで止みましたが、この時期、梅雨の長雨や台風などの襲来で雛の数が激減することはよくあるそうです。
 保護したライチョウたちは全て足環をつけ識別認識ができるようにしています。生まれたての雛にも一つだけ足環をつけ、秋に成長して大きくなったら再度捕獲し足環を四つにして完全に個体識別ができるようにします。
 2日目の朝には一家族の放鳥がありました。朝ご飯をお腹一杯食べた後、ケージを開け家族を自然に戻します。親鳥と5羽の雛たちは一斉に自分たちの好きなフィールドに向けて歩き始め、好きな斜面に辿り着き、自然の餌を食べ始めます。しばらくして落ち着いたのを見届けたらその家族の保護は終わりです。その家族にとってはその日からケージではなく、高山植物に覆われた斜面が夜の寝床になるのです。たった一日見守った私ですら胸にこみ上げるものがあったのですが、「これからは自分たちの力で頑張って生きていけよ」と見守る中村先生の優しい表情がとても印象的でした。放鳥が終わるとすぐにケージは解体され、翌年のケージ保護に向け手入れされ保管されます。
 野生の生き物の生息数を人の手で増やし、絶滅した場所で再生させることはいろいろな意見があるとは思います。しかし、氷河時代から何とか生き延びてきたライチョウたちが、人間の生活が原因で起こった気候変動や環境破壊などでその生息数が激減してしまい、今や絶滅の危機に瀕していることは事実です。ニホンライチョウを「第二のトキ」にしたくないとの思いで長年研究してきた研究者たちが、科学的な分析と経験を駆使し、せめて絶滅危惧種からは脱却することを目指しているのです。ニホンライチョウは日本の伝統文化である山岳信仰においては山の守り神であり、海外のライチョウたちのように狩猟によって食用にされることがない日本で唯一人を恐れない野生の生き物になったのです。
 私が活動中も多くの登山者たちがライチョウの親子を見つけ、特に子どもたちが目を輝かせながら見守っていました。「山の守り神」が多くの山で訪れる人々を見守ってくれる日々が続いていくことを心から願わずにはいられません。日本人の精神と日本アルプスの山岳環境でようやく生き残った数少ないニホンライチョウがこれからも日本の山で家族を増やし、登山者たちの心を和まし続けてくれることを願い、多くの国民にこの活動を知ってほしいと思いました。
 参照:一般財団法人中村浩志国際鳥類研究所―日本の野鳥を守る(hnbirdlabo.org)
(京都府歯科保険医協会
副理事長 平田 高士)

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