京都の観光問題を考える 観光公害と京都ブランド 辻 俊明(環境対策担当理事)  PDF

② 諸外国の観光問題
ベネチアなどで地元住民の抗議デモ

 新興国・地域での中間層の拡大や格安航空会社(LCC)の伸長などにより世界各地で観光客数は増え続け、多くの国でオーバーツーリズムが問題となっています。そのため、観光収入で得られる利益と地域が受ける不利益を見定め、利害調整を図ることが各国の行政などに強く求められます。
 欧州の観光地として知られるイタリアのベネチアやスペインのバルセロナでは、観光客増加のために渋滞やごみ問題が深刻化し、地元住民による抗議デモが起きています。そのような事情によりべネチアでは現在、公共交通機関を利用できる乗客数が制限され、また本島以外の島などに観光客を誘導するなどの施策がとられています。
 タイ・プーケットの南東に浮かぶピピ島のマヤ湾は、2000年レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ザ・ビーチ」のロケ地になりました。これによりこの島の知名度が高まると、大勢の日帰り観光客らが訪れるようになり、その結果サンゴ礁が消滅するなどの環境破壊が発生しました。これ以上の環境破壊を防ぐため、政府は2018年、この湾を閉鎖しました。2022年1月になって厳しい環境保全対策の下で観光客の受け入れは再開されましたが、今でも環境保護のための短期間の閉鎖は続けられています。
 豊かな自然、歴史のある寺院が多くの旅人を惹き付けてきたブータンでは、コロナ前の2019年まで観光客が増え続け、どこも混雑し宿泊施設も足らなくなりました。そのため政府は2022年9月、観光税を3倍以上に引き上げるなどして観光客数削減に乗り出しました。これにより、観光客を受け入れ始めた1970年代に掲げたローボリューム、ハイクオリティー(高品質な旅を少数の人に)という観光政策の原点に立ち返ろうとしたのです。
 オーストラリアを代表する世界遺産で、世界最大級の一枚岩として知られるウルル(エアーズロック)はもともとアボリジニ(先住民)にとって聖地であり、崇拝の対象でした。しかしこの岩はオーストラリアを代表する景勝地でもあり、日の出や日没の時間帯に赤く染まるウルルを眺めるツアーや、ウルルを間近で散策するツアーを目的に毎年多くの観光客が訪れるようになりました。そのような中、2010年にはフランス人女性がウルルの上で水着姿になる事件が発生し、2015年には台湾人観光客がウルルから滑落する事故が起こりました。そのため、アボリジニの文化に対する敬意と安全性の観点から、2019年10月、ウルルでの登山は禁止となりました。
 京都市では2013年時点での外国人宿泊客は100万人程度でしたが、2018年では450万人を突破し、観光消費額は1・3兆円を突破しました。しかし、京都市ではコロナ前の数年間、公共交通機関のバスに観光客があふれ、地元住民が乗車できない問題が発生しました。前述した諸外国での対応は、京都の観光問題に対する解決策を強く示唆しています。歴史と文化が息づく京都の景観が観光客で埋め尽くされているのを何もせず傍観しているとしたら、それは自ら京都のブランドを毀損する行為であると言わざるを得ません。

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