乗り鉄ドクの趣楽悠遊 vol.4 村上 匡孝(綴喜) THE RAIL KITCHEN CHIKUGO ピザ窯を搭載したキッチントレイン(西鉄)  PDF

 九州、福岡天神から南へ大牟田までの西鉄天神大牟田線は純然たる通勤・通学路線ですが、なんと食事を提供する“レストラントレイン”が運行されています(写真1)。“グルメ”を売りにする観光列車が、木・金・土・日・祝日のランチタイムに1日2便運行されています。
 車両は既存の通勤電車の改造車。外面のロゴやラッピングはシールや単なる塗装ではなく、立体的に加工がなされていて“気合十分”。よく見ると、お酒の杯やブドウ、イチゴなど、筑後の地域特産品が現代的で都会的なデザインに盛り込まれ、“店”の質感が出ています(写真2)。
 2号車は厨房車両。外壁には窓がなく手書き黒板風の装飾がなされ、外観はまるでホームに横たわる洒落たレストランです。乗車するホームにはテーブルや黒板が置かれていて、クルーが予約の名前を聞いてきます。このレストランっぽい演出はキッチンカーから漏れる薫りとともに至高のひととき。しかもホーム反対側に入る電車からはいつも通り客が乗降するという、この混沌とした空間と景色は日本の鉄道の中で異色といえます。
 テーブルや内装には地元の大川の木製調度を用いて、都会的センスあふれる装飾のレストラン。日本で初めて列車の車両の中に本格的なピザ窯を搭載し、季節ごとに旬の九州の食材を重用し、窯を活かしたできたての温かい料理を売りにする、新時代の都市型観光列車です(写真3)。前菜のプレート、魚のプレート、肉のプレート、デザートプレートに、あまおうのスパークリングを皮切りに、ワインや日本酒をマリアージュする、豪勢なイタリアンのコース料理でした。車窓の展望に魅力や名物がない都市の近郊電車でも観光列車になり得るという、体験と新知見を得ました。
 柳川で下車して、立花家の江戸町柳川の水郷の風情を船頭の名調子とともに船で楽しみます。下船後は名物の鰻料理や久留米絣の店を冷やかしながら、酔い覚ましに街並みを散歩します。これがまた気持ち良い。
 夜は柳川に泊まってもよし。太宰府に戻ってゆっくりするもよし。古民家や古いお屋敷をリノベートした施設も多く、伝統を残しながら新時代に活きる気概を感じました。
 廃れ消えゆく京の町家を憂うる私としては、見習ってほしいと思います。
 今回の推し地酒。柳川の地酒、「百花撩乱・斗瓶取り純米大吟醸原酒」(柳川酒造、福岡)。名の通り、搾りたての生(山田錦)は旨い。
 (西鉄キッチントレイン 2022年3月乗)

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