芸術家の美意識と心通わす 大山崎山荘美術館 辻 俊明(西陣)  PDF

 京都府乙訓郡大山崎町、天王山の中腹にある洋館。実業家が所有していた洋館をアサヒビール株式会社が改修し、1996年に美術館が開館した。正式には「アサヒグループ大山崎山荘美術館」と言う。涼やかな秋風の吹く晴れた午後、山荘美術館を訪れることに。
 JR京都線山崎駅から山に向かって歩くこと10分、四季の風情あふれる広大な山荘庭園が出迎えてくれる。春には桜、初夏の睡蓮、紅葉の秋、椿が静かに花開く冬。ここでアートな気分は一気に高まり、さらに山道を進んで英国風美術館の入口扉を開ける頃には期待感はマックスに。
 印象派クロード・モネの代表作「睡蓮」の連作をはじめとした西洋美術作品を鑑賞後、本館2階、屋外テラス席にある喫茶室からの景色を鑑賞することに。コーヒー、ビールを片手に目の前に見えるのは、木津川から対岸の男山までの緑豊かな眺望。京都の山中にこんな洒落たカフェがあったとは。ステンドグラス、オルゴールなどのアンティーク類で飾られた本館では、ドイツ製ディスクオルゴールの荘厳な重低音が定時になれば部屋中に響き渡る。
 大山崎山荘美術館は、大正から昭和初期にかけ、実業家によって建造された英国風「大山崎山荘」を創建当時の姿に復元して開館した美術館であるが故に、建物自体が芸術品であり、そのため芸術品の中で芸術作品を鑑賞することになる。美を愛する芸術家の思いは大切にしなければならない。だからこそ芸術作品は美しい芸術品の中で展示され、美術館自体も豊かな自然の中に建てられた。私見であるが、自動車の排気ガスにまみれた市街地にあるコンクリート造りの美術館に芸術作品が並べられていても、作品から本来の美を感じ取ることは難しい。
 大山崎山荘美術館は山紫水明の地にあるが故に、他の美術館に比べてより深く芸術家の美意識と心を通わすことができる。お寺や神社でも、それが豊かな自然の中にある時、神仏と心を通わせることはより容易となる。自然美の中で聖なるものに心を通わす。美術鑑賞は祈りである。もっと言えばオープンカフェでコーヒーを飲むことも祈りである。祈ることで本物に出会う。それは例えようもなく神聖で美しい。
 欧州の美術館でも建物や立地に、美を愛する思いはよく表れている。例えば、規模も質も日本の美術館と全く異なるので比較にならないが、サンクトペテルブルクの風光明媚な川沿いにあるエルミタージュ美術館の建物内部に施されている大理石の階段、彫刻、シャンデリアなどは、展示作品を鑑賞する以前に鑑賞者を圧倒してしまう。まさしく芸術品の中に芸術作品が展示されているのである。

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