京都の観光問題を考える 観光公害と京都ブランド 辻 俊明(西陣)  PDF

文化人の愛した京都
 文豪・川端康成が京都をテーマに執筆した作品「古都」は、1961年 62年に朝日新聞の連載小説として掲載されました。「古都」は川端が京都市の下鴨に家を借り、そこで生活しながら仕上げた長編小説です。それは四季の移ろいを鮮やかに捉えた京都の歳時記でもあります。川端は、その頃交流していた日本画家・東山魁夷に何通もの書簡を送っています。その中の一通には「今のうちに京都を描いてほしい、京都の姿はやがて消えるかもしれない」と。それは後に東山魁夷画伯の「京洛四季」として結実しました。1960年代の初めといえば、近代化が急速に進んだ高度経済成長期。古都の景色が消えゆくさまを目の当たりにした川端の心中は察するに余りあります。
 東山の麓、銀閣寺から若王子神社までの疏水沿いに続く1・5km程の小径。大正から昭和の初めに哲学者の西田幾多郎が思索にふけりながらこの道を歩いたことから「哲学の道」と呼ばれるようになりました。「哲学の道」を彩るのは、春は桜、夏は蛍、秋は紅葉、そして冬には雪化粧をした大文字山。四季折々の風景を眺め、周辺にある社寺に立ち寄る。こういった環境の中で、日本を代表する哲学・西田哲学は生まれたのです。
 数多くの文化、芸術、学問が京都の自然環境と密接な関係を持って誕生しました。これらの多くは、豊かな自然がなければ誕生しなかったかもしれません。京都の景観には、長い歴史に彩られた文化がしっかり組み込まれています。京都の景観からは文化の香りがするのです。
 山紫水明と称えられる豊かな自然と1200年の歴史に育まれた数多くの文化。このように自然と文化の両方を併せ持つような都市は京都の他にはありません。これこそが京都の魅力の源泉であり、京都の価値の本質を成すものです。近年、利便性・合理性を追求する近代化の流れと、歴史・文化を支えた景観との共生が、日本全国で叫ばれていますが、今回、ここでは京都の魅力の本質をブランドと捉え、その観点から京都を取り巻く環境問題、特に観光問題について考えてみたいと思います。

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