鈍考急考42  PDF

公務員の組織文化にどう対処するか
原 昌平 (ジャーナリスト)

 行政にも良い人、熱心な人は確かにいる。でも役所とやりとりしていると、腹の立つ場面がしばしばある。
 公務員に多く見られる傾向と対処法を考えてみたい。
 第1に、ルールにこだわる。多様な案件を扱うには一定の基準が必要だから、法律、規則などに照らして判断する。中央省庁はそれらをよく把握しているが、自治体では法律や規則をよく知らない職員が、その部署の単なる慣習をルールと称していることがある。
 役所の回答に納得できないときに、情に訴えても実りは少ない。「法律はどうなっていますか?」と根拠を尋ね、こちらでも法律を調べよう。
 法律や制度はあらゆる事態を想定して作れないので、例外的なケースは法制度の目的・趣旨に照らして解釈する必要がある。それが法学で、法律家はそういう思考をする。
 ところが行政職員は、法律や規則を「決まり」としか考えず、条文の文言にあてはめるだけのことが多い。かみ合わなければ行政不服審査請求などの法的手段も考えよう。
 第2に、書類にこだわる。書類は情報整理と作業効率化の手段なのに、その形式を自己目的化して、煩雑な書類作成を強いていたりする。
 筆者がびっくりしたのは、あるNPO法人の代理で市役所へ申請書を提出したとき。見出し欄に【種別】【事務所】と書いたら、(種別)(事務所)と記号を変えて出し直すよう求められた。そんなトリビアに時間を費やして、重要な課題に手が回るのか。
 一方で行政には、何でも文書をこしらえて記録・報告する習慣がある。電話の相談や苦情もたいてい記録される。
 大事なことは文字にして伝え、回答も文書やメールで求めよう。情報公開請求や個人情報開示請求も活用しよう。
 第3に、上下意識が強い。役所の中でも外部の人にも役職、肩書きを重視する。会合での席の位置、あいさつの順序まで細かく気にする。
 人間をランク付けしたがる権威主義、一種の差別文化。権力者・有力者には丁重にご機嫌を取り、福祉の利用者は見下す。行政の中でも非正規公務員は粗末に扱われる。
 議員、法律家、記者など行政が軽視できない人の協力を得てもよい。職員の態度がひどければ人事課に伝えよう。
 第4に、労力をかけたがらない。特に問題案件の調査や不正の摘発は手間がかかる。捜査機関と違って摘発が業績にならず、対立を恐れるので、腰が重い。正義感のある職員がいても、余計なことをするなと上から抑え込まれる。
 第5に、責任を問われたくない。つまり保身。担当部署ではないから、前例がないから、みんなに公平にしなければ、などと言って逃げる。
 取り組まなければ、あなたの責任が問われますよ、と逆のリスクを伝えよう。個人の権限が大きい欧米と違い、日本では組織的決定が主なので、行政以外の人が参加する会議で決める形にして、職員の責任負担を減らす方法もある。
 気に入らないことを書き連ねたが、公務員は個人差が大きい。やる気のある人、誠実な人を支えよう。批判、要求ばかりではなく、具体的な提案や知恵を提供しよう。

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