シリーズ環境問題を考える 159  PDF

NO MORE福島 NO MORE原発回帰
福島原発「処理水」の浅層海洋放出に反対する

 東日本大震災と大津波で炉心融解し爆発崩壊した福島第一原発からは、事故時、政府の報告でも、広島原爆168発分に相当する1・5×1016ベクレル(日本政府のIAEAへの報告)ものセシウム137(半減期30年)が大気中に放出された。その80%は太平洋を経て地球北半球全体を核汚染し、また20%は福島をはじめ東北・関東全域に降り注ぎ、福島を中心に約1万4000?の大地が「放射線管理区域」にしなければならない汚染を受けるに至った。大地は汚染され、「原子力緊急事態宣言」が発令され、15万人の県民が生活の場を奪われ、緊急避難を余儀なくされた。
 12年後の今も、3万2千人を超える人々が郷里を奪われ、保障もなく、県外生活を余儀なくされている。除染事業で10㎝の表土が剥がされた土地は農地としては使いものにならず、10㎝農土ができるには100年もの年月が要る。帰還が許された土地や家屋も大半は被曝線量が20 mSv/年を超える「放射能管理区域」相当の環境である。「アンダーコントロール」(故安倍晋三氏)とは真っ赤な嘘で、原子炉建屋は崩壊し、メルトダウンした炉心はコンクリートの床をも壊し、チャイナ・シンドローム寸前、強い放射能でAIロボットすら短時間で損壊し、12年を経たが、いまだにデブリの取り出しすら方策のめども立たず、流出する核汚染した冷却水を垂れ流し続けてきた。
 事故当初の30~40年で8兆円としていた東電の廃炉行程は全く見通しが立たず破綻し、先に事故を起こしたスリーマイル島原発やチェルノブイリ原発同様、溶融核燃料は取り出せず、コンクリートパネルの石棺で100年以上覆い尽くすことになるのではと予想されている(総費用は廃炉せず燃料閉じ込め、汚染水海洋放出でも35兆円、廃炉・汚染水放出しなくても81兆円に上るとされる)。
 また事故後12年間、福島第一原発は汚染水を出し続け、敷地内には130万トンもの、東電のいう、いわゆる「処理水」(浄化処理はしたものの取り除けず、放射能「主にトリチウム」が残った水)が貯まり、貯蔵タンクの容量の限界が迫っている。トリチウムの半減期は10年とされるが、政府と東電は「処理水」を海水で薄め、濃度を国の排出基準の40分の1未満の処理水にした上で、原発から沖合いに向け掘った海底トンネルを通して、沖合1㎞先の排水口から海の表層に流す計画を立て、「漁民の同意なしには、実施しない」との公約をも無視し、この夏にも放水開始を強行しようとしている。表層海洋に放出される「処理水」は半減期10年のトリチウムを含み、今後100年以上にわたる放出で、海洋を汚染し、生物学的濃縮により、地球環境や魚類の生態に重大な影響を及ぼすのではないかと危惧される。このトリチウム汚染水の浅層海洋放出は、六ヶ所村の「原発から持ち込まれた使用済み核燃料の再処理工場」「MOX燃料工場」でも目論まれている方策でもある。
 今後30年以内に70~80%という極めて高い確率で、東日本大震災をも上回る、南海トラフ巨大地震が発生するとし、政府自らが国民に備えを喚起しておきながら、またロシアのウクライナ侵略で現実化したように、原発が非常時には致命的急所になってしまうことを思い知らされながら、政府が原発回帰を宣揚し、原発の生み出した危機を隠蔽する姑息な汚染水放出を強行することを、56基の原発を抱える国民として許してはならないと思う。
 また「原発回帰」は老朽原発の再稼働を進め、汚染水を垂れ流し、軍備増強、増税、社会保障費削減を進める、政府の「子育て支援」の政治があの「産めよ」「殖やせよ」の忌むべき時代の再現につながらないよう祈らざるを得ない。
(環境対策委員 島津 恒敏)

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