医師が選んだ医事紛争事例 184  PDF

患者都合で専門医への受診勧告を断られたとしても…

(50歳代後半男性)
〈事故の概要と経過〉
 患者は、両前腕の皮膚硬化、腫脹、疼痛などがあり、本件医療機関を初めて受診した。患者によると2年前から手指の痺れ、両手の疼痛があり、半年前から上記の症状が生じていたことから、医師は全身性強皮症と考え採血を試みたが、皮膚の硬化などで四肢の静脈が確認できず実施できなかった。医師はA医療機関への紹介を申し出たが、患者が自分の仕事の都合で断り、本件医療機関に週1回の通院を希望したため、ロキソニンRの処方などを行った。
 初診から1週間後、前腕の皮膚硬化・疼痛などは少し改善したが、採血はできなかった。そのため医師は再度、A医療機関の受診を勧めたが、患者が拒否したため本件医療機関での治療を継続した。
 初診から5週間後、患者が心窩部痛および胸焼けを訴えたため、ロキソニンRを中止してプロトンポンプ阻害剤を処方した。その約1週間後には血圧が急激に上昇し(200㎜Hg以上)、DHP系カルシウム拮抗剤2剤による高血圧治療を開始した。なお、B医療機関にて実施したMRI検査では、頭部に異常は認められなかった。
その後、患者は経口摂取がほとんどできない状態になり、初診から2カ月後にC医療機関に入院した。そこでは頚部から採血検査を行い、その後シャントを形成する手術を受け、透析治療が開始されたとのことだった。
 患者側は弁護士を介して、仮に初診または2回目の受診時に強皮症の疑いで血液検査をしていれば、腎機能の悪化や強皮症の進行を少なくとも2年程度遅らせることができたとして賠償請求をしてきた。
 医療機関側としては、患者側の訴えには医学的根拠がなく、初診当初から高次医療機関を紹介する提案をしていたが断ったのは患者の都合によるものとして、医療過誤を否定した。
 紛争発生から解決まで約7カ月間要した。
〈問題点〉
 医療機関側は初診時から全身性強皮症を疑っており、また採血ができなかったことから、患者は早急に専門医への紹介に応じて受診すべきであり、医師はその旨を強く説得すべきであったと考える。患者の仕事の都合でA医療機関の診察日と予定が合わなかったが、それは高次医療機関・専門医への受診をしなくてよい理由とならない。仮に初診時に他の専門医療機関を受診していれば、予後が変わった可能性は高かったとも考えられる。さらにロキソニンRや降圧剤(カルシウム拮抗剤)を投与し続けていたことが、腎機能の悪化に寄与した可能性も否定できず、この点も問題となり得る。
〈結果〉
 医療機関側と患者側の話し合いが進む中、患者本人には賠償請求の意思がない(患者家族が患者の意思に反してクレームを言っていた)ことが判明し、患者側は賠償請求を取り下げた。

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